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【質問】 降圧薬 長期服用が心配

 40代の男性です。数年前の健康診断で高血圧と指摘され、降圧薬を服用してコントロールしています。高血圧で薬を飲み始めると、一生飲み続けなければいけないとも聞いています。食事など日常生活面の改善により完治させることは可能でしょうか。脳、心臓、腎臓などに合併症を起こさないためにも、注意点について教えてください。



【答え】 高血圧症 -生活習慣改善し血圧調整を-

北前川診療所 近藤千鶴子(徳島市北前川町3丁目)

 健康診断で高血圧症を指摘されたとのことですが、30歳以上の日本人男性の47.5%、女性の43.8%が、収縮期血圧140ミリメートルHg以上か拡張期血圧90ミリメートルHg以上、あるいは降圧剤服用中です(以下血圧値の単位省略)。男女計の高血圧者総数は、全国で4千万人とも言われています。

 降圧剤を一生服用し続けなければならないかと、よく質問されますが、日常生活の改善(食事療法、運動療法、肥満の改善)によって一時的に正常域になる方もいます。しかし、高齢になるにつれ、合併症(脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病)が加わり、降圧剤の服用は避けられないと思います。高齢化が進行している現在では、ますますその傾向が強くなります。

 血圧値別に脳卒中の発症率を調べた研究結果がありますが、血圧が上昇するにつれてリスクが増えています。収縮期血圧120未満かつ拡張期血圧80未満に比べると、収縮期血圧130~139か拡張期血圧85~89は1.7倍、収縮期血圧140~159か拡張期血圧90~99は3.3倍、収縮期血圧160~179か拡張期血圧100~109も3.3倍、収縮期血圧180以上か110以上では8.5倍となっています。

 年齢別血圧区分と循環器疾患死亡の相対リスクについての追跡研究結果によると、30~60歳では収縮期血圧120未満に比べて、収縮期血圧120~139で約2倍、収縮期血圧140~159は約4倍、収縮期血圧160~179で約10倍、収縮期血圧180以上では約18倍と、血圧が上昇するにつれて死亡のリスクが増えています。

 高血圧は腎臓に対しても早期から、機能的または器質的変化を及ぼしています。慢性腎臓病(CKD)という言葉を最近よく耳にしますが、腎機能は30代から加齢とともに低下し、糸球体濾過率(いときゅうたいろかりつ)(体の中の不要物を尿中に排出する能力)は、高血圧症を合併する人では正常な人の4倍のスピードで減少(悪化)するとされています。

 腎不全の発症と血圧値の間に、過度な降圧で危険性が増すJ型現象は存在しませんが、血圧が上昇するにつれて高率になります。CKDは高血圧症とともに自覚症状に乏しく、進行した腎機能障害から末期腎不全、人工透析へと進展していくことも多々あります。CKDの治療は原因にもよりますが、血圧を下げることによって腎機能障害の進展を抑制、阻止することができます。

 従って、脳、心臓、腎臓などに合併症を起こさないためには、生活習慣の改善とともに、降圧剤による血圧のコントロールが重要です。

 5年前から始まった特定健診を受けて、高血圧症はもちろん、メタボリック症候群の改善にぜひ取り組んでいただきたいと思います。職場で検診が義務付けられている方のほとんどが受けておられますが、自営業など国民健康保険に加入されている方や主婦は自己責任になってしまい、重症になってから病気が発見されることがあります。

 自分の体の状態はぜひ知っておいていただきたいと思います。それが本人、家族の幸福はもとより、医療費の削減にもつながっていくはずです。

徳島新聞2012年8月19日号より転載

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