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【質問】 腹部に激痛あり発熱も

 40代の夫のことで相談です。先日、腹部に激痛を訴え、発熱もあったので、病院に行ったところ、急性すい炎と診断されました。すぐに入院したのですが、急性すい炎とはどのような病気で、どのような治療をするのでしょうか。日常生活で気を付けることがあれば教えてください。



【答え】 急性すい炎 -絶飲絶食と点滴治療を-

徳島県立中央病院 消化器内科部長 矢野充保

 すい臓は胃の裏側にあり、食べ物の消化に欠かせない消化酵素を作っている臓器です。この消化酵素は通常、すい臓内では働かず、十二指腸へ分泌されて初めて活性化し、作用します。何らかの原因で、消化酵素がすい臓内で活性化し、すい臓自体を消化(自己消化)してしまうのがすい炎です。その影響は時に全身に及びます。

 原因としては、アルコールの過剰摂取が最も多く、比較的若年の方にみられます。次に、胆石が詰まって起こるものが多いとされています。まれに高脂血症や遺伝性、さらに薬の副作用でも起こることがあります。また、飲酒も胆石もない原因不明のすい炎(特発性すい炎)も4分の1ほどみられます。

 症状として最も多いのが、みぞおちから左上腹部の急激な痛みで、しばしば背中にも広がります。何の前触れもなく痛みが起こることもありますが、特に、脂肪分の多い食事の後や、アルコールを多く飲んだ後に起こることも少なくありません。痛みは膝を曲げて丸くなると和らぐことがあります。

 そのほか、吐き気や嘔吐(おうと)、腹部の膨満感、発熱などが特徴です。ひどくなると血圧の低下(ショック状態)や尿が出なくなることもあります。

 急性すい炎の症状は、胃・十二指腸の病気や胆石の発作などにも似ており、これらとの区別が必要です。急性すい炎の診断基準は▽上腹部に腹痛発作と圧痛(押さえたときの痛み)がみられる▽血中や尿中、腹水中のすい酵素(すい型アミラーゼなど)が上昇する▽画像(腹部CTや腹部超音波検査)で、すい臓に急性炎症に伴う異常がある-のうち、2項目以上を満たすことです。

 急性すい炎の症状は刻々と変化するため、重症度の評価と適切な治療が重要です。痛みを、市販の鎮痛剤や飲酒で紛らわそうとしても効果はありません。痛みを辛抱して、かえって悪化することもあります。

 基本的な治療は、まず自己消化が進まないように絶飲絶食をしてすい臓の安静を図り、点滴による輸液管理を行います。痛み止めや消化酵素の働きを抑えるため、タンパク分解酵素阻害剤の点滴も必要になります。そのほか、胃酸分泌抑制剤や細菌の感染を防ぐための抗生物質を注射します。重症例ではさらに、透析のような血液浄化療法や集中治療室での管理が必要となることもあります。

 以上の治療内容から、入院治療が原則になります。軽症の場合は、治療によって数日から1週間ほどで症状は治まりますが、全身に炎症が及ぶと重症化し、入院が長期化したり死亡したりすることもあります。

 ご質問にある日常生活での注意点ですが、この病気では食事に対する注意がとても大切です。急性すい炎の痛みが取れて状態がよくなってくれば、おかゆや野菜スープなど炭水化物中心の食事から始め、徐々に脂肪分やタンパク質も少量取るようにします。

 再発もありますので、体調が落ち着いても飲酒はやめた方がよいでしょう。胆石が原因なら胆石の治療をし、暴飲暴食を慎み、脂肪分の多い食事(トンカツなどの揚げ物)や刺激の強い食事も控えてください。1日3食の規則正しい食事を心掛けることが重要です。

 また、急性すい炎が疑われたときは、消化器専門の医師に早めに相談することをお勧めします。

徳島新聞2011年10月16日号より転載

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