徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

【質問】 急に下半身の力入らず

 12歳の長女が急に下半身に力が入らないようになり、翌日、両手の握力も弱くなっていました。病院で「ギラン・バレー症候群」と診断され、安静にするため入院することに。快方に向かっていますが、今後再発することはありませんか。部活動でスポーツをしていますが、退院後は過激な運動をしてもいいのでしょうか。



【答え】 ギラン・バレー症候群 -再発まれ、リハビリ徐々に-

徳島大学病院 小児科准教授 森 健治

 ギラン・バレー症候群は、急速に発症する四肢の筋力低下と、腱(けん)反射(腱をたたくと反射的に起こる収縮)の減弱・消失を特徴とする末梢(まっしょう)神経疾患です。小児の発症頻度は10万人当たり年間約1人で、成人に比べて少ないですが、決してまれではありません。

 初発症状として、四肢の脱力に加えて手足のしびれや痛みがあり、筋肉痛や関節痛、腰痛などを伴うこともあります。これらの異常感覚は多くの場合、筋力低下の1~2日前に現れます。

 筋力低下は下肢から上肢に向かい、左右対称に起こります。腱反射は低下・消失し、半数は、顔面筋の筋力低下、目や喉の筋肉のまひ、不整脈や血圧の変動など自律神経異常を伴うこともあります。小児の場合、約60%が歩行不能に陥り、重症例だと障害が呼吸筋に及んで、10~20%は人工呼吸管理が必要となります。平均1週間で病状はピーク(極期)に達し、その後2~4週間で筋力が回復していきます。

 神経症状が現れる1~3週前に、種々の細菌やウイルス感染による下痢、感冒様症状が先行することが多く、中でも、カンピロバクターによる腸炎が最も多くみられます。

 先行感染した菌やウイルスは、末梢神経の構成成分である種々の糖脂質(GM1など)とよく似た構造をしていることが分かっていて、感染に伴って産生された抗体が、自己抗体として神経組織を障害することが原因と考えられています。

 末梢神経の糖脂質に対する抗体は血液中で検出されることが多く、血液検査が早期診断に有用です。髄液タンパクの上昇や運動神経伝導検査なども診断の補助になります。

 後遺症を残すこともまれではないため、歩行障害の目立つような重症例では、できるだけ早期に治療を開始する必要があります。小児に対しては、免疫グロブリンの点滴静注が第1選択となっています。通常は3~7日以内に治療効果が出てきます。免疫グロブリンが使用できないか、効果不十分な場合は、血漿(けっしょう)交換療法が行われることもあります。

 呼吸筋障害、嚥下(えんげ)障害を伴うこともまれではないため、約6分の1の症例は人工呼吸器による管理が必要となります。自律神経系の障害が認められることも多く、血圧低下や不整脈がある場合は厳重な注意が必要です。

 発症初期には褥瘡(じょくそう)・関節拘縮(こうしゅく)の予防のため、極期以降は早期離床・筋力増強のために、積極的なリハビリを行います。筋力が徐々に回復している時期には、軽い運動から始め、休息を入れて低負荷と反復(短時間の運動を頻繁に行う)を原則とします。疲労感や痛みが翌日まで残らないようにすることが大切です。

 症状は、発症後4週以内にピークに達して、その後は回復し、再発することはまれです。半数は発症半年以内、70%の人は1年以内に歩行可能となり、約85%は完全に回復します。しかし、15%は何らかの筋力低下を残すといわれています。

徳島新聞2011年8月14日号より転載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.