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【質問】 胸が痛く呼吸も苦しい

 20代の長男のことで相談します。胸が痛く、呼吸も苦しいというので病院に行くと、自然気胸だと言われました。すぐにカテーテルを入れて楽になったようなのですが、再発はするのでしょうか。完治はできるのですか。日常生活で気を付けることがあれば教えてください。



【答え】 自然気胸 -特発性は2割再発、禁煙を-

麻植協同病院 内科部長 遠藤 健

 自然気胸に関する質問にお答えする前に、肺の構造や機能について、少し説明させていただきます。

 肺は、肺胞という小さな袋が多数集まって構成されており、片方の肺に3億個の肺胞があると言われています。肺の機能は呼吸、言い換えるならガス交換に関わることです。空気中の酸素を体内に取り込み、体内で酸素を消費した結果、発生した二酸化炭素を、逆に体外に放出する役割を果たしています。

 そのガス交換を行う主な場が肺胞で、肺胞腔(くう)内の酸素が肺胞壁の毛細血管に取り込まれ、二酸化炭素は逆に肺胞壁の毛細血管から肺胞腔内に放出されます。これは生命を維持していく上で不可欠な機能です。

 肺の外側には、肺表面を覆う臓側胸膜と、胸壁の内側にある壁側胸膜という二つの胸膜があり、その間の腔を胸膜腔と呼びます。健常な状態では、二つの胸膜は密に接しており、胸膜腔に空気は存在しませんが、何らかの原因によって胸膜腔に空気が貯留した状態を気胸と呼びます。

 昔、肺結核の治療として意図的に胸膜腔に空気を注入する人工気胸が行われていましたが、これに対して人工ではない気胸のことを自然気胸と呼びます。

 自然気胸は、特に問題のない肺に発生する特発性気胸、肺気腫(しゅ)や間質性肺炎などの基礎疾患で傷んだ肺に穴が開くことにより肺から胸膜腔に空気が漏れて発生する続発性気胸、肋骨(ろっこつ)の骨折や胸部の打撲などの衝撃で発生する外傷性気胸などに分類されます。

 特発性気胸は、若年で痩せ形の長身男性に多くみられ、発生のピークは20代ですので、ご質問のケースもこの特発性気胸と考えられます。

 特発性気胸の原因として多いのが、ブラやブレブと呼ばれる肺胞性嚢胞(のうほう)の破裂であり、破裂した部位から肺内の空気が胸膜腔に漏れることにより発生します。肺胞性嚢胞とは、前述した肺胞が肺胞壁の破壊により融合拡大したもので、いわば、肺胞というごく小さな風船がより巨大な風船に変化した状態と言えます。

 破裂部からの空気漏れが少なく肺の虚脱が小さい軽症の場合は、安静のみでも破裂部が自然閉鎖すれば治癒します。ただ、空気漏れが比較的多く肺の虚脱が大きい中等症以上の場合は、ご質問のケースのように、胸壁からカテーテル(正確には胸腔ドレーン)を挿入し、肺の外に漏れた空気を脱気して虚脱した肺を膨らませる必要があります。破裂部が閉鎖して空気漏れがなくなれば、胸腔ドレーンを抜管し、ひとまず治療は終了です。

 ただ、特発性気胸の場合は20%程度に再発が起こります。破裂部が閉鎖しても、気胸の原因となったブラやブレブはそのまま残存するからであり、再発した場合は、手術でブラやブレブを切除すれば完治することが多いようです。手術は、侵襲(外部からの刺激)の大きな開胸手術ではなく、侵襲の小さな胸腔鏡下手術で行うことが多くなっています。

 日常生活で気を付けることは、何と言っても禁煙が重要です。ブラやブレブはそもそも、たばこの有害な成分により肺胞壁が破壊されて発生することが多く、喫煙を継続すれば既存のブラやブレブが拡大し、破裂しやすくなるだけでなく、新たなブラやブレブが発生しやすくなるからです。

徳島新聞2011年7月10日号より転載

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