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【質問】 腫瘍マーカー数値高い

 70代の男性です。昨年8月に肝臓がんになり、肝臓と胆のうの除去手術を受けました。腫瘍マーカー(AFP)の数値が、手術前は30だったのが、徐々に上がり、現在は103くらいです。時々、手術の痕に沿って少し腹痛がありますが、経過をみているだけです。このまま何もしないでいいのでしょうか。



【答え】 肝臓がん -定期的な精密検査必要-

徳島市民病院外科(肝胆膵外科)診療部長・救急室総括部長 三宅秀則

 がんの再発を心配するご質問と思われます。昨年8月に肝切除と胆のう摘出術を受けられており、手術創に沿って軽度の痛みを認めるのは、今の時期ならば特に問題はなく、経過観察でよいと思われます。しかし、がんに対して経過をみているだけだとしたら少し疑問が残ります。

 まず、腫瘍マーカーについて説明します。体内に腫瘍(多くの場合はがん)ができると、特殊な物質が大量に作られ、血中に放出されます。この物質を「腫瘍マーカー」と呼び、臨床の場では分かりやすく「がんマーカー」と言うこともあります。

 腫瘍マーカーの種類は、がんが発生した臓器と強い関連があり、血液検査で基準値以上に認められた場合は、その臓器ががんの可能性があります。しかし、基準値以上だと必ずがんがあるわけではなく、逆に、基準値以下だといってがんがないとも言えません。

 肝臓がんの腫瘍マーカーには、AFP(アルファフェトプロテイン)、PIVKA2、AFP-L3分画の3種類があります。しかし、がんが存在しても腫瘍マーカーが異常値を示す割合は、AFPとPIVKA2で約60%、AFP-L3分画で約40%です。言い換えると、肝臓がん患者の40~60%は腫瘍マーカーが正常範囲だということです。

 AFPに関しては、施設によって基準が多少違いますが、およそ10~20ng/ml以下を正常範囲と考えればよいと思われます。AFPが200~400ng/mlであれば肝臓がんの可能性が高く、400ng/ml以上であれば非常に疑わしいと思われます。

 肝臓がん以外に、肝硬変や肝炎でもAFPが異常値を示すことがありますが、正常範囲のせいぜい数倍のことが多く、経時的に上昇することはまれです。また、これも非常にまれですが、肺がんや胃がんなどでもAFPが上昇することがあります。

 ご質問の場合、手術前の30から、現在は103ng/mlに上昇しているとのことです。この値では、がんの可能性が高いとは言えませんが、上昇していることは心配されます。肝臓がんの手術後であることを考えると、再発を疑って精査を行う必要があります。

 肝臓がんの術後は定期的に精密検査を行い、経過観察するのが普通です。肝がん診療ガイドラインでも、肝臓がんの危険群とされているB型肝炎、C型肝炎患者の場合、2~6カ月ごとの腫瘍マーカーの測定と、超音波検査を軸とした造影剤を用いたCT検査やMRI検査が推奨されており、最低でも術後3カ月ごとの精査は必要でしょう。

 肝臓がんの再発部位としては、残肝(切除して残った肝臓)が最も多く、続いて肺、骨への転移の頻度が高くなります。従って、術後にAFPが増加傾向であれば、残肝や肺、骨の精査をすべきです。精査で明らかな再発巣が認められない場合は、しばらく経過観察でよい場合もあります。

 お尋ねのケースではまず、手術を受けた病院で、AFP値の上昇について説明を受けるべきです。術後9カ月が経過していて、CTやエコーで精査を行っていると思いますので、それらを総合的に説明してもらえるでしょう。

 手術後、何の精査も受けていないのであれば、肝臓専門医のいる病院を受診し、経過説明を行った後、精査を受けることをお勧めします。肝臓がんは、治療後5年で約80%の患者に再発を認めるとされ、他のがんに比べ再発率が非常に高いのですが、手術後のフォローアップと治療で、予後が全く違ったものになります。

徳島新聞2011年5月15日号より転載

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