徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

【質問】 疲れで吐き気や食欲減退

 70代の男性です。10年前から疲れがたまるとめまいや吐き気がして食欲もなくなります。脳外科ではMRIでも脳に異常はなく、耳鼻科ではメニエール病ではないと言われましたが、病名は分からないとのことでした。症状は10日間ぐらい続き、その間は寝たままです。どんな病気が考えられますか。また何科を受診すればいいですか。



【答え】 高齢者のめまい -他科も受診 根気強く治療-

谷口耳鼻咽喉科クリニック 谷口雅彦(板野郡松茂町広島)

 めまいは大きく分けて、耳の異常が原因の末梢(まっしょう)性、脳の異常が原因の中枢性と、そのほかの原因に分かれます。60歳までは末梢性が多く、60歳を越えると末梢性と中枢性が同頻度になり、70歳を越えると中枢性の頻度が高くなるといわれています。今回は高齢者に多くみられるめまいについて、耳鼻科医の立場から書きたいと思います。

 末梢性めまいには、良性発作性頭位性めまい、メニエール病、前庭神経炎、目まいを伴う突発性難聴、外リンパ漏、中耳炎によるめまいなどが挙げられます。

 良性発作性頭位性めまい症は、頭を急に動かした時、寝たり起き上がったりした時、寝返る時に、めまいが数秒から数十秒続くのが特徴です。病因は頭部外傷(頭部打撲)、種々の内耳疾患、加齢などがあります。近年は高齢者の割合が増加傾向で、70歳以上では末梢性の約半数に疑われるという報告もあります。

 内耳の前庭(重力や加速を感知する装置)にある耳石という物質がはがれ、半規管(頭部の回転を感知する装置)についたり半規管の中を動いたりすることで起きるといわれています。

 メニエール病は、内耳にあるリンパ液が増え過ぎてたまった状態(内リンパ水腫)になり、めまいのほかに難聴や耳鳴り、耳の詰まった感じなどの症状が繰り返して起こります。難聴はめまいが起こると悪化し、めまいが治まるとましになります。めまいを繰り返しているうちに聴力が悪化する場合もあります。発病には精神的・肉体的疲労やストレス、睡眠不足が関係しているといわれています。

 中枢性めまいとしては、椎骨(ついこつ)脳底動脈循環不全症、脳梗塞(こうそく)、脳出血、脳腫瘍(しゅよう)などがあります。椎骨脳底動脈循環不全症は、めまいに関係する小脳や、脳幹に栄養を送る動脈の血流が悪くなることにより、めまいを起こす病気です。

 原因としては動脈硬化、頚椎(けいつい)の変形、動脈の走行異常などで、めまい以外にも視力障害、意識障害、上肢のしびれや悪心、嘔吐(おうと)などが出ることがあります。首を回したり、体位を変えたりした時に起きることが多いのが特徴です。

 そのほかのめまいとしては起立性低血圧、高血圧、不整脈、低血糖症、心因性目まい、頸(けい)性めまいなどがあります。中でも、起立性低血圧は、座った状態から立ち上がった時に血圧が過度に低下し、結果的に脳への血流が低下してめまいが起こる病気です。特に高齢者は、血圧を一定に保つ機能が衰えているため、このような状態が起こりやすいといわれています。

 ご質問の文面では、めまいの症状や起こり方、持続時間、脳神経症状、耳の症状、また全身的な合併症(高血圧、高脂血症、糖尿病など)や薬剤服用の有無が分かりません。脳外科でMRIを撮影したとのことですが、MRA(血管撮影)の所見はどうだったのでしょうか。耳鼻科ではメニエール病以外のほかの末梢性めまいの可能性はどうなのでしょうか。

 いずれにせよ、1回だけの受診では診断がつかない場合もありますので経過をみる必要があると思います。また、10日間くらい症状が続くとのことですが、高齢者は内耳や前庭神経、大脳皮質などの神経系が加齢で変性し、さらに運動機能も低下することで平衡感覚が衰えます。若い人に比べて脳の働きも弱いため、めまいの治りが悪く、一度治ってもまた繰り返すことが多いといわれています。高齢者のめまいは脳梗塞など脳循環障害の前兆である場合も考えられるので、耳鼻科だけでなく、脳外科や神経内科、循環器科、一般内科の専門医にも相談しながら根気強く治す必要があります。

徳島新聞2010年5月2日号より転載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.