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【質問】胃もたれや激しい膨満感

 30代の男性です。3カ月ほど前から胃痛や胃もたれ、膨満感が激しく、病院で検査をしてもらいましたが、異常はありませんでした。病院では「機能性胃腸症」と言われました。有効な治療法はないのでしょうか。日常生活ではどのようなことに気を付けたらよいのでしょう。



【答え】 機能性胃腸症 -薬物治療 対症療法が中心-

ほとり内科 吉田智則(徳島市川内町)

 検査をしても異常は見つからないのに、さまざまな腹部症状を有する疾患を「機能性消化管疾患」と呼びます。機能性消化管疾患には、非びらん性胃食道逆流症(NERD)、過敏性腸症候群(IBS)、そして機能性胃腸症(FD)が含まれます。

 FDは、心窩(しんか)部であるみぞおちを中心とした「胃もたれ」「腹部飽満感」「胃痛」などの上腹部症状を特徴とする症候群です。内視鏡検査などの精密検査を受けても器質的な異常は見つからないため、「気のせいだ」などと見過ごされてきた患者の中に、FDの人も多く含まれていたかもしれません。

 しかし実際には、内科を訪れる患者の中で最も多い疾患のひとつです。FDは大きく分けて食後膨満感、早期飽満感、心窩部痛、心窩部灼熱(しゃくねつ)感といった4つの症状に分けられています。

 FDの診断基準は、「4つの症状のうち少なくとも1つ以上があり、器質的疾患を認めず、診断時より6カ月以上前に症状が出現し、最近3カ月間症状が続いているもの」と定義されています。

 検査で異常は認めないのに、なぜ上腹部症状が現れるのでしょうか。

 はっきりとした病態は解明されていないのが現状ですが、FDの原因としては、主に3つの要因が考えられています。

 1つめは、胃酸による症状です。胃に細いチューブを入れてゆっくりと酸を注入すると、胃痛や不快感、膨満感などの症状が現れることが分かっています。しかも、注入直後よりしばらく時間がたってからの方が症状が強くなる傾向にあり、さらに直接十二指腸に酸を注入することにより、胃の痛みや不快感、満腹感などが増強されるということも分かっています。

 2つめは、胃の運動機能異常です。食事をとると胃の上の部分が膨らみ、いったん食物をためる働きをしますが、この働きが悪いと満腹感が増強します。また、食事をとってしばらくすると胃の後半部分が動きだし、食物を十二指腸に排せつしますが、この両者の協調運動がうまくいかなくても「胃もたれ」や「少し食べただけで満腹感」を感じることになります。

 3つめは、内臓知覚過敏です。胃の中に風船を入れて膨らませたところ、FD患者は健康な人に比べて、痛みに対する感じ方が敏感であることが知られています。不安などの精神的ストレスは知覚過敏を増強させることも分かっています。

 薬物を用いた治療は、それぞれの要因に対する対症療法が中心になります。胃酸を抑制するプロトンポンプインヒビターやH2ブロッカー、胃の運動機能改善薬であるモサプリド、抗不安薬であるタンドスピロンなどのほか、漢方薬の六君子湯(りっくんしとう)などが効果あるとされます。

 しかし、FD患者の症状は単一ではなく、複数の症状を有することがほとんどです。先に挙げた3つの要因はそれぞれ独立したものではなく、複合的な要因が絡まりあって病態と症状を形成しているため、単一の薬剤で劇的に効果が表れることは少ないようです。

 現在も日本をはじめ全世界で、どのような胃薬が効果があるか、中枢で知覚過敏を抑える薬剤はないかなどの研究が進んでいます。

 日常生活においては、刺激物やアルコール過量を避けるといった食事内容、禁煙、適度な運動、睡眠を十分にとりストレスをためないなど、一般的な注意が必要でしょう。

徳島新聞2009年10月25日号より転載

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