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【質問】 下痢が一向に治らない

 23歳の女性です。社会人になってしばらくしてから下痢が続いています。消化器内科にかかっていますが、一向に治る気配がありません。病名は過敏性腸症候群とのことです。効果的な治療法はないのでしょうか。食生活や生活習慣で気をつけることがあったら、それも含めて教えてください。



【答え】 過敏性腸症候群 -まず生活習慣の改善を-

山本内科胃腸科 有住 基彦(板野郡北島町)

 消化器内科で過敏性腸症候群と診断されているので、癌(がん)や炎症性腸疾患などの器質的疾患は除外診断されているものと思います。説明は受けていると思いますが、いま一度、下痢についてお話しします。

 腸内の水分量は、口から入る食べ物や飲み物の水分と、胃液や胆汁などの消化液を合わせて数リットルありますが、小腸と大腸で大部分が吸収されるため、便として排出されるときの水分含有率は75%ぐらいになっています。この水分の吸収が何らかの理由で悪くなり、水分含有率が90%にもなると水様便、つまり下痢状態となります。

 これとは別に、菌やウイルスによる胃腸炎では、菌や毒素を早く排出するための防御反応として腸粘膜からの水分分泌が増え、下痢を起こします。

 過敏性腸症候群は、腹部症状の原因となる器質的疾患(癌など)が見つからないのに、腹痛や腹部不快感を伴う便通異常が繰り返し起こる疾患です。ストレスなどのために腸の運動リズムが乱れ、大腸のぜん動運動が活発になった結果、腸管の内容物の通過が速まり、十分な水分吸収が行われないまま内容物が排出されて下痢を起こします。4つのタイプ(下痢型、便秘型、混合型、分類不能型)に分類されますが、質問の人は下痢型と思われます。

 胃や腸は、脳の影響を強く受ける臓器です。不安やストレスを感じると、その信号がすぐに伝わります。心配ごとがあると胃が痛むのもこのためで、腸では運動異常が起こります。

 過敏性腸症候群ではストレスの信号が伝わりやすくなっているため、腸が過剰に反応してしまいます。また、腸が痛みを感じやすくなっているため、少しの刺激でも腹痛となります。こうして起こった腹痛や便通異常が、さらにストレスを増幅させ、症状が悪化するといった悪循環に陥ることになります。

 過敏性腸症候群の症状は一般に、強い緊張やストレスを感じるときに症状が出やすいといわれています。例えば仕事中や会議中、出勤中、登校中にトイレに駆け込むようになります。逆に休日などには症状が軽くなるものです。

 治療は、まず生活習慣の改善が大事です。▽規則正しい生活を送る▽十分な睡眠と休養を取る▽3食を決まった時間に取る▽散歩などの適度な運動をする▽スポーツや趣味でストレス解消を心掛ける-ことなどが必要です。下痢型の人は、冷たい飲み物や香辛料、油分の多い食品など腸粘膜を刺激して下痢を悪化させる食品は避けましょう。

 治療薬としては、消化管運動調整薬、抗コリン薬、止痢剤、整腸剤などが使われますが、抗不安薬や坑うつ剤が必要な場合もあります。どの薬も主治医の先生の指示に従って服用してください。薬物療法で効果が見られないときは、カウンセラーによる心理療法が必要なこともあります。

 今の時代に生きている限り、ストレスを避けて通ることは困難です。過敏性腸症候群は現代病の一つともいえるでしょう。大事なのは100点満点を目指さず、自分は70点でも合格点と納得させること、自分を自分以上に見せようと背伸びをしないことです。あるがままの自分を見てもらうことで「良し」とする心構えが大切だと思います。

徳島新聞2008年9月14日号より転載

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