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【質問】 酒を飲み怒鳴り散らす

 60歳の主人は、お酒を30年くらい飲み続けているのですが、10年ほど前から時々、家の中であたりかまわず尿をするようになりました。今でも2日に一度は外に飲みにいき、外ではものすごくいい人ですが、私には飲むと怒鳴り散らします。私が「病院に行って先生に相談したら?」と言っても相手にしてくれません。薬で治す方法はないのでしょうか? 自営で生活がかかっているので入院もできないし、ほとほと困っています。



【答え】 アルコール依存症 -家族相談で知識学んで-

城西病院 院長 井上 和俊(徳島市南矢三町)

 ご主人はアルコール依存症です。「家族巻き込み疾患」ともいわれ、ご主人に振り回されている家族の姿が目に浮かびます。依存症者は「飲むことで頭がいっぱい」、家族は「飲ませないようにすることで頭がいっぱい」ですが、実は、ともに依存しているのです。家族は自分を変えることから始めましょう。 

 家族は、問題飲酒がなくなればすべて解決すると考えていて、依存症者を治してもらいたいと考えますが、自らも改めなければならないところがあるとは思っていません。被害者意識を捨て、自らの健康的な生活を取り戻す必要があります。しかし、そのことをはっきり理解する人は少ないようです。家族相談に出掛け、アルコール依存症の知識を学びましょう。

 依存症者は、飲むと必ず失敗し、お酒をやめたいと思うときがきます。しかしこのような気持ちと裏腹に問題飲酒を繰り返します。依存症者の飲酒欲求は病的で、意志ではコントロールできません。家族は「意志が弱い」と責めますが、そうではなく病気なのです。やめたくともやめられずに苦しみや劣等感に襲われ、しらふでは耐えられなくなり、飲酒し酩酊(めいてい)することによって忘れようとします。そして、飲むと身近な人を攻撃対象にします。

 受診を拒否しているようですが、無理やり受診させても怒りの感情が増幅するだけです。まずは酔いがさめたときに、飲んだ自分がしたことをありのまま見てもらうことが必要です。

 あたりかまわず尿をしたならそのままにして掃除しない。しりぬぐいをすることは飲酒への手助けで、これをイネイブラーといいます。依存症者が、自分のしてしまったことを認識したとき、家族が悩んで依存症の相談にいったことや、そこで学んだことを話すと効果的です。

 そのときは「家族が困っているから」でなく「心配している」という視点に立ち、しらふのときに話をすることです。アルコール依存症に特効薬はありません。治療法は原因を取り除くこと、しかも節酒ではだめで、一滴も飲まない生涯断酒(卒酒)しかありません。きっかけとして入院が必要な場合もあります。アルコール治療プログラムを実施している病院や保健所などへ相談してみてください。

 アルコール依存症は薬物依存症の一種です。アルコールは、精神依存と身体依存の両方を引き起こす化学物質です。人はお酒を飲むと、酒量や個人差の違いはあってもだんだん止められなくなり、コントロールを失っていきます。どこからが依存症かは別として、お酒を飲む人はすべて依存症への道を進んでいると考えてよいでしょう。

 お酒は「楽しく、おいしいもの」と信じられ、「全く飲まないより少し飲む方が長生きする」ともいわれていて、依存症からの回復(卒酒)は難しいのが現実です。しかし、飲酒のコントロールはできないことを素直に認め、アルコールの本質(コントロールできない依存性のある毒物で、飲んでよいことは何もない)を本当に理解できれば、簡単に卒酒ができ、そのうえ人生もバラ色に変化していきます。

徳島新聞2008年8月17日号より転載

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