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【質問】 異常免疫が増えている

 64歳の女性です。骨髄穿刺(せんし)検査で無症候性骨髄腫と診断されました。薬も飲まず治療もしていませんが、何もしなくてもいいのでしょうか?骨髄移植で延命ができると聞きましたが、どのような治療でしょうか?赤血球、血色素、白血球、好中球、リンパ球とも正常で、貧血もありません。尿たんぱくが「+」になったり、「-」になったりすることがあります。IgG(免疫検査)は2カ月に1回の検査ごとに200前後増していって現在2500mg/dlあります。IgM(75)IgA(175)とも正常で、X線検査も異常ありません。



【答え】 骨髄腫 -進行度に合った治療を-

徳島大学病院 血液内科 尾崎 修治

 骨髄腫とは血液のがんの一つで、骨の中(骨髄)にある形質細胞(リンパ球の一種)が増加する病気です。通常、骨髄穿刺検査で形質細胞が10%以上に増加した場合に診断をします。 

 形質細胞は、感染防御に重要な免疫グロブリン(Ig)を作る働きをしており、正常の人は多くの種類の形質細胞がバランスよく免疫グロブリンを作っています(IgG、IgA、IgMなど)。しかし、がん化した形質細胞が一種類の異常免疫グロブリンを作り続けると、正常な免疫グロブリンを極端に減少させます。このような形質細胞や免疫グロブリンの異常で、多様な症状をきたす病気が多発性骨髄腫です。

 骨髄は血液細胞を作る場所でもありますが、がん化した形質細胞はこれらの生成を抑えます。特に赤血球の生成が抑えられることが多く、疲労感や息切れなどの貧血症状が現れます。

 また、骨を壊す働きをしている細胞(破骨細胞)が活発になり、骨がもろくなります。進行すると腰痛や背中の痛みを自覚するようになり、軽い日常動作で骨折したりもします(病的骨折)。骨破壊が続くと骨からのカルシウムが血液中や尿中に増加し、腎臓の機能低下を引き起こします。正常の免疫グロブリンが著しく減少して免疫力が低下すると、細菌などの感染症にかかりやすくなります。

 ただ、症状や進行の程度は人によって異なります。貧血や骨病変、腎障害などを伴う場合は症候性骨髄腫と呼ばれますが、いずれの症状もない無症候性骨髄腫という病型もあります。

 無症候性骨髄腫はくすぶり型骨髄腫とも呼ばれ、長期間進行しない例もあれば、数年で症候性骨髄腫に移行することもあるので、個々の症状や進行度に合った治療方針を選択します。症候性骨髄腫では診断と同時に治療が必要ですが、無症候性骨髄腫では治療をせず経過をみます。がん化した形質細胞の活動が活発になり、いずれかの症状が現れるようになった時点で治療を開始します。

 多発性骨髄腫の治療は、がん細胞をやっつける抗がん剤療法と、貧血や骨痛などの症状を軽減させる支持療法があります。骨髄移植は最も強力な抗がん剤療法で、がん細胞の根絶を目的として他人の骨髄を移植するものです。通常の抗がん剤療法に比べて副作用が強く、主に50歳以下の人に実施されます。なお、現在では骨髄移植よりも副作用の少ない治療法として、患者自身の末梢(まっしょう)血を用いた自家末梢血幹細胞移植があります。多発性骨髄腫では主に65歳以下の人を対象に、通常の保険診療として行われています。

 質問の人は、血液や尿検査、骨病変を診断するX線検査で大きな異常がなく、現在の病状は無症候性骨髄腫と考えて良いでしょう。異常免疫グロブリンはIgG型で増加傾向にありますが、正常のIgAやIgMは保たれており、現時点で治療の必要はありません。

 一般に、異常免疫グロブリンがIgG型の場合で5000mg/dl程度まで増加すると、症候性骨髄腫としての症状が現れることが多いようです。ただし、IgGの増加にかかわらず、症状やそのほかの異常が現れることもあるので、引き続き定期的な検査を受けて治療開始の時期を相談されることが大切です。

徳島新聞2008年7月27日号より転載

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