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【質問】 薬の服用をやめたい

 18歳の女性です。3年前に自律神経失調症との診断を受けました。現在も治療を続けていますが、最近は暑さのせいか、横になっている時間がほとんどで、起き上がるのもつらいです。同年代の人は楽しい時間を過ごしているのに、自分は何をしているんだろうと焦ってしまいます。薬を飲むこともやめたいのですが、症状がもっとひどくなるのではと不安です。薬をやめられる方法はありますか。



【答え】 自律神経失調症 -原因病名を知り治療を-

やまぐちメンタルクリニック 山口 浩資(徳島市寺島本町東)

 心療内科医や精神科医の外来業務は、薬を飲まない患者さんや飲みたくない患者さんとの、戦いの毎日です。薬のせいで余計に身体がだるくなる、友人や親から薬をやめろと言われた、薬を飲んでいるから仕事でミスをすると職場で注意された…など、説得力ある論理に、医者の方が途方に暮れる毎日です。

 相談者の自律神経失調症という病名は症状からみたものですが、それではいけないようです。原因からみた病名が必要で、原因からは、うつ病や適応障害、ストレス障害があります。

 うつ病は、「脳の病気であり、薬で治る」とされていますが、実際には、生活や物事の対処の仕方から対人関係まで、さまざまな要素を検討しなければ治療できません。まさしく、治療者と患者さんの双方に原因を考えさせる病名です。

 適応障害は、病気の原因の多くが環境要因にあると考える病名です。環境にうまく適応できていないから体調が悪くなるのだろう、うまく適応するにはどうすればいいか考えようという病名ですから、まさしく原因病名です。もちろん薬物療法が重要なことは、うつ病と同じです。

 そしてストレス障害は、ストレスと体調不良の関係を本人が意識することにより回復を促していくことが重要ですから、病名が治療法を表しているといえる原因病名です。このように、病名によって治療方法が変わるため、自律神経失調症ではいけないのです。

 患者に治療を受ける者としての覚悟を決めてもらうことは、医療現場では珍しくありません。手術の危険性や抗ガン剤の副作用といったものへの覚悟だけではなく、うつ病、適応障害、ストレス障害の病名を受け入れるという覚悟も同じだと思います。

 先日も、ある会社員に「うつ病で1カ月の休養を要する」との診断書を書いて渡したところ、会社員は「うつ病という病名で会社に偏見を持たれては困る。自律神経失調症など、もう少しマイルドな病名にしてほしい」と頼まれました。

 もちろん、答えはノーです。私は、すがりつくようなまなざしの会社員に次のように説明しました。

 人間は弱いものです。あなたの言う通り、自律神経失調症と書いたとしましょう。するとあなたは自分に暗示をかけます。「自分は自律神経失調症という軽い病気で、ちょっと休ませてもらっているだけだ。会社も理解してくれるに違いない」と。あなたは治療に本気になれず、恐らく、ずるずるとうつ状態が続いて退職になると思います。覚悟を決めて、うつ病の診断書を提出して治しましょう。治してしまえば、会社も誰も文句は言いません。

 原因からみた病名を考えることは、覚悟をしていただくために必要な作業といえます。

 最後になりましたが、薬をやめられる方法は、覚悟して治療することだと思います。

徳島新聞2008年7月13日号より転載

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