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【質問】 動悸が頻繁に起こる

 20代後半の女性です。心療内科を受診しており、パニック障害といわれています。先日、救急車で運ばれたとき、脈が180あり硬直しました。最近、急に15キロ太り(身長152センチ、体重74キロ)、動悸(どうき)が頻繁に起こります。脈拍が上がるのはパニック障害と関連があるのでしょうか?体調も悪くなり、のどに違和感があります。のどは胃カメラで検査しましたが、異常なしでした。また、鼓動が速くなり、息苦しくなってくるのではないかと不安になります。気にしないでおこうと思えば思うほど不安になってきます。どうすればいいのでしょうか。教えてください。



【答え】 パニック障害 -薬の服用や心理療法を-

けんなんメンタルクリニック 院長 後藤 宏樹(阿南市日開野町筒路)

 パニック障害という病名は、1980年に初めて公式疾病分類の中に採用されました。若い女性に多く、有病率は2%前後です。実はそれまでの長い間、不安神経症として理解されてきました。つまり、その病因の主たるものは心理的葛藤(かっとう)であると考えられていたのです。

 研究の進展に伴い、今では生物学的要因が強いといわれています。不安神経症と呼ばれていた疾患は、現在はパニック障害と全般性不安障害に分けられています。

 パニック障害の典型的な症状は、何の前触れもなく始まる強烈な不安と激しい自律神経症状です。胸が締めつけられ、息もできず、心臓は破裂しそうに動悸を打つため、死の恐怖から思わず、救急車で病院に駆けつけてしまいます。ところが、そのときに検査をしても身体的な異常はみつかりません。

 このような発作が繰り返されると、また発作が起きるのではないかと不安になり(予期不安)、発作が起きたときのことを想像するだけで外出するのも怖くなり(広場恐怖)、何か体に重い疾患があるに違いない(心気症状)と、病院巡りをするようになります。反復する発作や不安のため、日常生活に支障をきたしてしまうのです。

 パニック障害の身体症状には自律神経系が関与していますが、その自律神経は交感神経と副交感神経という相反する作用を持つ神経から成り立っています。何らかの恐怖に面したとき、動物の脳内にはカテコールアミン(ノルアドレナリンやセロトニンなど)と呼ばれる神経伝達物質が分泌され、交感神経の働きが活発になることで呼吸数と心拍数が増加、全身に酸素を供給し、さらに発汗、瞳孔散大、全身の筋肉の硬直などをもたらします。これらの反応によって動物は敵と戦うための準備状態を作りだしているのです。

 人の場合も同様に、不安や恐怖あるいは緊張感によって交感神経の興奮が起こり、自律神経症状が起きます。病的不安では、その自律神経症状により不安が増強され、そのため身体症状がさらに悪化するといった悪循環に陥ります。

 さて相談の人ですが、パニック障害と診断されているので、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)、抗不安薬などを服用していると思います。しかし、まだ十分な効果が出ていないようです。特にSSRIは、効果が出るまで数週間かかります。苦しいかもしれませんが、あせらず、じっくり構えることが大事です。

 また、予期不安から動悸や息苦しさ、のどの違和感など自律神経症状が頻発しています。予期不安は全般性不安障害のように心理的要因が強く作用します。認知行動療法や自律訓練法などの心理療法を受けてもいいでしょう。

 体重増加の原因は、推測になりますが、広場恐怖から外出が少なくなったことによる運動不足、二次性のうつ状態による過食、あるいは薬の副作用といったことが考えられます。不安に思うことがあれば、率直に心療内科の医師に相談することが、病状の安定につながると思います。

徳島新聞2007年11月4日号より転載

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