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【質問】 コレステロール値が低い

 60代の主婦です。夫婦で健康診断を受けたところ、私のHDL-コレステロール値が血液1デシリットル当たり29ミリグラムで、夫が34ミリグラムでした。共に低いようなのですが、食物に関係があるのでしょうか。



【答え】 低HDL―コレステロール血症 -血液検査で脂質量調べる-

矢田医院 矢田 健太郎(吉野川市川島町三ツ島)

 今回のご相談はHDL-コレステロール値以外の情報がありませんが、身長、体重、腹囲、血圧、病気で治療中かどうか、飲酒、喫煙暦なども参考になります。

 最初にHDL-コレステロールについて簡単に説明しておきましょう。血清脂質としてはコレステロール、中性脂肪、リン脂質などがありますが、血液中ではそれぞれの脂質(油)は単独では水に溶けないので、タンパク質に包まれた状態である「リポタンパク」として存在し、体の中を循環することになります。

<表1>リボタンパクの種類
カイロミクロン
(CM)
超低比重リボタンパク
(VLDL)
中間型リボタンパク
(IDL)
低比重リボタンパク
(LDL)
高比重リボタンパク
(HDL)
リポタンパクは比重の違いにより5種類あります〈表〉1。構成するタンパクの性質や脂質の割合、粒子の大きさが異なっています。お尋ねの高比重リポタンパク(HDL)もその一つです。HDL-コレステロール値とは、高比重リポタンパクに含まれているコレステロール量を意味します。

 次に、HDL-コレステロールはどんな役割をしているのでしょうか。通常のコレステロールは肝臓で作られて全身に輸送されますが、人の生体内の末しょう組織(血管内皮など)ではコレステロールをほとんど異化できないので、血管内膜などに過剰なコレステロールが運び込まれる結果、動脈硬化病変ができます。

 HDL-コレステロールは、末しょう組織からコレステロールを引き抜いて肝臓に戻す(転送する)役目を担っています。従って、動脈硬化を抑制する作用があり、善玉のコレステロールとも呼ばれています。

 HDL-コレステロール値が血液1デシリットル当たり40ミリグラム未満は、最近話題のメタボリックシンドロームの診断基準の一つになっています。一般的にはこの数値が低いと虚血性心疾患の発症率が高くなり、高コレステロール血症の有無にかかわらず低HDL-コレステロール血症自体が冠動脈疾患の危険因子になります。

 質問内容に戻りますが、以前の検査値が正常で、今回初めて低値を認めた場合には二次性の低HDL-コレステロール血症が示唆されます。低HDL-コレステロール血症には二次性のもの以外に、先に述べた構成するタンパクに関する遺伝子異常で発症する原発性低HDL-コレステロール血症もあります。

<表2>
低HDL-コレステロール血症
原発性低HDL-コレステロール血症
二次性低HDL-コレステロール血症
低栄養状態・肝臓病・悪性腫瘍・血液疾患・慢性腎不全・感染症・甲状腺疾患・インスリン抵抗性(肥満・2型糖尿病)
 二次性の原因としては、低栄養状態、肝臓病、悪性腫瘍、血液疾患、慢性腎不全、感染症、甲状腺疾患、インスリン抵抗性(肥満、2型糖尿病など)などが挙げられます〈表2〉

 中でも、糖尿病や肥満によるインスリン抵抗性でインスリンの作用が低下すると、HDL-コレステロールの産生が少なくなる一方、その分解が進むためにHDL-コレステロール値は低下します。糖尿病や肥満が良くなるとHDL-コレステロール値も増えてきます。

 サイアザイド系降圧利尿剤やβ(ベータ)遮断薬、高脂血症の一部の薬でも低HDL-コレステロール血症をきたすことがあります。生活習慣では喫煙によりHDL-コレステロール値は低くなり、適度の飲酒や運動で逆に増加します。

 食事との関連性を心配されていますが、中性脂肪が高くなる食習慣(甘い物、酒、脂肪分の多い物を好むなど)があれば控え、肥満(内臓肥満)があれば減量に努めてください。

 午後9時から翌朝まで何も食べないようにして、血液検査を受けていただくことがまず必要でしょう。その結果、やはりHDL-コレステロール値のみが低い状態であれば、かかりつけ医に相談してください。原発性低HDL-コレステロール血症の疑いが残れば、さらに詳しい脂質検査ができる医療機関に紹介していただいたらと思います。

徳島新聞2006年12月3日号より転載

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