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【質問】 白内障術後に夜見えづらい

 84歳の女性です。今年1月に右眼の白内障の手術を受けました。担当の医師からは「レンズがきれいに入っている」と言われ、目薬を処方してもらいました。しかし、1カ月後に夜間外出したとき、真っ暗で見えなくなりました(明るいところはよく見えます)。複数の病院を受診しましたが、どの医師にも「両眼の視力が落ちている」と言われ、目薬を処方してもらうだけでした。私は、レンズを入れているのに目薬が効くのか疑問で、レンズを入れない方がよかったのではないか、とも思います。一度入れたレンズの取り換えはできないのでしょうか。また、2年前から内科の薬(ワーファリン錠、ニューロタン錠、ノルバスク錠、ラシックス錠、ラニラピッド錠)を飲んでいますが、目に悪いものはありますか。



【答え】 夜盲症 -定期的な眼科検診を-

糸田川眼科 糸田川 誠也(吉野川市鴨島町鴨島)

 「明るいところでは見えるが、暗いところでは見えない」「夜、道が見えないので外出できない」などの訴えは夜盲、いわゆる「鳥目」の症状です。

 夜盲症には先天性と後天性の疾患があります。さらに先天性の疾患は、加齢とともに悪化する進行性と、停止性があります。質問の女性は、右眼の白内障の手術後に夜盲になったということから、進行性である先天性進行性夜盲症か、後天性夜盲症が疑われ、先天性停止性夜盲症は除外できます。通常、夜盲症は両眼性です。ただ、特殊な後天性夜盲症は片眼に発症することもあります。

 進行性の夜盲症の原因となる疾患で最も多いのは、先天性進行性夜盲症の一つである網膜色素変性症です。文面では左眼の状態が分からないので断定できませんが、質問の女性もこの疾患の可能性が考えられます。

 網膜色素変性症の自覚症状としては進行性の夜盲、視力低下、視野狭窄(きょうさく)があります。統計によれば、日本人の失明原因の3位で(ちなみに1位は糖尿病性網膜症、2位は緑内障)、発症頻度は4千~8千人に1人とされています。診断には眼底検査、網膜電図検査、蛍光眼底造影、暗順応検査などが行われます。

 根本的な治療はありませんが、網膜に光が当たると病気が進行するといわれているので、眼科の医師に特別な遮光眼鏡を処方してもらうといいでしょう。また、難病医療費助成が受けられるので、その申請も必要でしょう。

 質問の女性は白内障の手術でレンズを入れない方がよかったかのではないか、と思っているようです。しかし、手術で眼球の水晶体を取り除いた後、もし代わりになる眼内レンズを入れなければ、非常に厚くて重い白内障術後の眼鏡をかけるか、コンタクトレンズを装用しなければ視力は出ません。

 このような眼鏡やコンタクトレンズは非常に不便で、QOL(生活の質)のためにも眼内レンズを入れるのが普通です。また、一度入れた眼内レンズは取り換え可能ですが、まず必要ありません。術後の強い眼内炎、適当でない度数の眼内レンズの挿入、あるいは眼内レンズのガラス体内への落下など特異な場合のみ、眼内レンズを取り換えることがあります。従って眼内レンズを入れる手術自体に問題はなく、取り換えの必要もないと考えられます。

 白内障手術はカメラのレンズにあたる水晶体の手術で、夜盲症はフィルムの役目をする網脈絡膜の疾患なので関連はありません。まれに白内障術後に眼内の炎症が広がると、カメラの絞りの働きをする虹彩が閉じたままレンズに癒着し、暗いところで絞りが開かなくなって片眼に暗さを訴えることはあります。

 内服薬の中には目に副作用を起こすものがありますが、質問の女性が飲んでいる薬は心配ありません。白内障の手術をするとすべての目の病気が治り、ほかの病気にかからないと勘違いしている人がいますが、決してそういうことはありません。手術によって、それまで以上にほかの目の病気にかかる可能性もあります。定期的に眼科を検診することを勧めます。

徳島新聞2005年9月18日号より転載

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