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【質問】 子宮摘出し更年期障害

 54歳の女性です。14年前に子宮頚(けい)がんにかかり、子宮摘出手術を受けました。その3年後くらいから、更年期特有の症状(目まい、耳鳴り、肩こりなど)が出て、つらい日が続いています。静かにしていると血液が止まりそうに感じることもあり、散歩していても歩くことが困難になります。何か改善策はないでしょうか。女性ホルモンがよいと聞きましたが、乳がんになる可能性もあるとかで、心配で使用に踏み切れません。女性ホルモン摂取の後遺症などを教えてください。



【答え】 女性ホルモン -必要最少量を最短期間で-

平尾レディースクリニック 平尾 務(徳島市西須賀町下中須)

 質問からは、卵巣を摘出したのか、残したのか分かりませんが、経過から考えると両側の卵巣も摘出したのかもしれません。一般に、45歳くらいまでに、手術で両側の卵巣を摘出した場合、女性ホルモンの低下が起こります。このため、程度の差はありますが、更年期障害の症状が見られることが多いです。

 この更年期障害に対して、日本でも欧米に倣って、十数年前より積極的にホルモン補充療法が行われました。しかし、米国の国立衛生研究所が施行していた、健康な閉経婦人に対するホルモン(エストロゲンとプロゲステロン併用)補充療法の臨床試験が、2002年5月に中止になりました。理由は、ホルモン補充療法によって、乳がん、心臓発作、脳卒中の発生率が増加したため、治療による恩恵より危険性の方が上回るとの判断からでした。

 その後、子宮摘出後の女性に対するエストロゲン単独療法の臨床試験は継続されていましたが、この試験も、脳卒中の発生頻度が増加することが判明したため、2004年3月に中止になりました。

 これを受けて、日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会・日本更年期医学会が、ホルモン補充療法に対する統一見解を出しました。

 <1>更年期障害の治療の基本は、精神・身体機能の評価と、これに基づいた食事、運動、栄養などの生活習慣の適正化で、それで効果がみられない場合には薬物療法を行う。

 <2>ホルモン補充療法は、薬物療法の一つの選択肢であり、選択するに当たっては、一人ひとりの女性について、その恩恵と危険性を慎重に判断する。

 <3>ホルモン補充療法は、更年期症状(のぼせ、発汗などの血管運動神経症状、腟壁萎縮(ちつへきいしゅく)などの泌尿生殖器萎縮症状など)に対して第一に適応するので、乳がんやその他の異常の有無をチェックしながら、必要最少量を必要最短期間投与する。

 以上の3点です。

 ホルモン補充療法の後遺症、すなわち副作用で重要なものとして、乳がん、脳卒中、静脈血栓症があります。いずれも発生頻度は低いですが、肥満の人、喫煙習慣のある人、高血圧の人は、副作用の発生頻度が高くなりますので、治療を行うに当たって十分な検討が必要です。それ以外の人も、有益性と危険性を十分に考慮した上で、治療を行うかどうかを判断しなければいけません。

 相談者に関しては、約10年もつらい症状が続いていますので、専門医とよく相談し、有益性と危険性を十分に理解した上で、危険性が低ければ、必要最少量、必要最短期間のホルモン補充療法を試みてはいかがでしょうか。

 もしホルモン補充療法が適さなければ、漢方薬、自律神経調整剤などの治療法を試みてはどうでしょうか。

徳島新聞2004年8月1日号より転載

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