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【質問】 口の中が乾燥し粘る

 55歳の女性です。最近、口の中が渇き、常に水分補給しなければ、口の中、特に歯がネバネバし、唇の裏側と歯がくっつきそうになります。唾液(だえき)の分泌が悪いのでしょうか。持病もなく健康です。強いていえば、年齢とともに歯のかみ合わせが悪くなってきていることくらいです。水分補給は歯を湿らせる程度です。何が原因で、こんな状態になってしまうのでしょうか。



【答え】 ドライマウス -まず唾液分泌機能検査を-

徳島赤十字病院 歯科口腔外科 山之内 浩司

 質問の文面からは口腔(こうくう)乾燥症が疑われます。ドライマウスとも呼ばれるこの病気は、現在、国内に約800万人の患者がいると推定されています。

 唾液は3つの大唾液腺(耳下腺、顎(がく)下腺、舌下腺)と小唾液腺(歯肉以外の口腔粘膜の下にある)から1日に約1.5リットルの分泌があります。その6割以上が顎下腺から分泌され、耳下腺、舌下腺と合わせると、唾液のほとんどは大唾液腺から分泌されます。

 これら唾液腺の機能が何らかの原因により障害を受けると、唾液量は減少し、口腔内の湿潤性はなくなり、乾燥状態となります。

 唾液には湿潤、抗菌、浄化、緩衝作用などの機能があり、唾液分泌の減少でこれらの機能が低下することにより、さまざまな口腔乾燥の症状を引き起こします。

 具体的な症状としては、今回のケースのように、口腔内のネバネバ感、歯と粘膜あるいは粘膜同士がくっつく、歯垢(しこう)や食べかすの停滞による歯周病、う蝕(しょく)(虫歯)の増加、それに伴った口臭も表れます。

 さらに、乾燥が進行すると、会話時の発音障害や食事摂取が困難などの症状が表れます。通常、摂取された食べ物は、かみ砕くことにより唾液と混ぜ合わさり、食塊を形成し嚥下(えんげ)(飲み込み)しやすいように調整されますが、乾燥のため食塊形成が十分できずに嚥下困難が生じ、食事摂取が減少します。また、乾燥状態が持続すると舌の赤みが強くなり、ヒリヒリとした痛みを伴う「舌痛症」を引き起こしたり、平滑舌や溝状舌といった状態を招き、味覚障害などに陥ることもあります。

 原因には加齢、薬剤の副作用(一部の降圧剤、精神安定剤、睡眠薬、抗パーキンソン薬、抗アレルギー薬、風邪薬など)、口呼吸、ストレス、不規則な生活習慣などのほか、糖尿病、尿崩症、自律神経失調症、さらにシェーグレン症候群といった全身疾患が潜んでいることもあり、自覚症状がなくとも注意が必要です。

 シェーグレン症候群とは、口腔乾燥を主な症状とする代表的な疾患で、多くは口腔乾燥症状を伴い、これを契機に診断されます。自己免疫疾患の一つで、唾液腺のほかに涙腺、胃腸腺などの外分泌腺といわれる全身の臓器が障害を起こし、慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患を合併することも多く、中年以降の女性によく発症します。

 口腔乾燥症に対する治療は、従来から生活指導や対症療法が中心に行われています。日常生活では普段から十分に水分を補給し、規則正しい生活とストレスの発散により自律神経のバランスを整えるよう心掛けてください。口腔粘膜保護が必要なことから、消炎作用を有する含嗽(がんそう)液、ヒアルロン酸配合保湿ジェル、人工唾液の噴霧、夜間の乾燥を防ぐ保湿用マウスピースなどを症状に応じて使用します。

 また、シュガーレスガムをかんだり、味覚刺激療法、唾液腺マッサージなども併用されます。そして、2001年9月には、副交感神経を刺激し唾液分泌を促進するという画期的な新薬である塩酸セビメリン(サリグレンRカプセル)が発売となりました。同新薬については、現在当科でも使用成績調査中で、おおむね良好な治療成績が得られており、今後が大いに期待されるところです。

 とにかく、まずは歯科口腔外科がある医療機関、専門外来を受診し、唾液分泌機能に関する検査を受けてください。十分程度でできる検査です。唾液分泌機能低下が明らかになれば、シェーグレン症候群など自己免疫疾患を中心に全身的な疾患に対する精査を含めた原因究明を行い、治療方針を決定します。

徳島新聞2003年12月14日号より転載

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