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【質問】 腫瘍がないのに血尿

 72歳の母のことで相談します。母は、高血圧で降圧剤を以前から服用しています。先日、目で見えるほどの血尿があり、診察を受けました。タンパク尿は、以前からあったそうです。病院で、CTスキャンもMRIも診てもらいましたが、腫瘍(しゅよう)はどこにも見られなかったそうです。ほかの原因で血尿が出たりするのでしょうか。



【答え】 慢性糸球体腎炎 -尿タンパク、血圧推移に注意-

上田医院 上田 圭介(三好郡三好町昼間)

 尿は、腎臓(じんぞう)で作られて、尿管を通って膀胱(ぼうこう)にたまり、尿道を経由して排せつされます。これを尿路といいます。尿中に血液が混じったものはすべて血尿ですが、その程度により、顕微鏡的血尿(遠心分離した尿の沈殿物を顕微鏡で見て赤血球がある場合)と、明らかな肉眼的血尿に区別されます。肉眼的血尿が現れる疾患=表参照=の90%が泌尿器科的疾患といわれていますが、これにはさまざまな原因があります。<1>尿路疾患によるもの<2>全身性疾患の部分症として血尿が出るもの<3>尿路の周囲の臓器疾患の影響によるもの-などです。

肉眼的血尿が現れる疾患
1尿路疾患
悪性及び良性腫瘍、結石、先天性奇形、外傷、感染症(腎盂=う=腎炎、腎結核など)、糸球体腎炎、IgA腎症、腎梗塞(こうそく)、腎動脈瘤(りゅう)、ナットクラッカー現象、特発性腎出血
尿管腫瘍、結石、外傷
膀胱腫瘍、膀胱炎
前立腺・尿道前立腺腫瘍(癌、肥大症、肉腫)、尿道腫瘍(癌)、結石、外傷、尿道炎
2全身性疾患の部分症
出血性疾患(紫斑病、血液凝固系異常)、白血病、異型血輸血、全身性エリテマトーデス、抗癌剤
3尿路周囲臓器の影響
子宮癌、直腸癌、膀胱周囲炎、骨盤内膿瘍(のうよう)、外傷
この中で成人、高齢者の血尿では、腎、尿路の悪性腫瘍を見落とさないことが重要です。その特徴は、起こったりやんだりする間欠的血尿で、血尿が消失したといって安心してはいけません。時間が経過して再び見られる場合があります。検査方法にはCT、MRI、尿細胞診(尿中に癌(がん)細胞が存在するかどうか)などがあります。女性の場合は、子宮癌でも、その出血の混入により血尿となることがあるので、特に注意が必要です。

 IgA腎症は腎臓の組織を一部取ってきて腎生検という検査をして顕微鏡で確認しないと診断はできません。

 ナットクラッカー現象は、左腎静脈が圧迫され、静脈内圧の上昇により血尿が出ます。CT、MRI、超音波検査で診断できます。

 特発性腎出血では、腎の血管腫(血管の塊)が高頻度に見られることが知られています。

 相談者は以前からタンパク尿と高血圧があるので、何らかの腎障害があると考えられます。最も考えられるのは、慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)です。この疾患は、タンパク尿、血尿、高血圧を示し、十数年間症状が出ませんが、最終的には腎不全に陥ります。今回は肉眼的血尿ですが、以前から顕微鏡的血尿が続いていた可能性があります。

 CT、MRIで腫瘍は認められなかったとのことですが、念のため尿細胞診や婦人科的、泌尿器科的な検査は必要かと思います。それでも異常がなければ、慢性糸球体腎炎のほか、ナットクラッカー現象や特発性腎出血が考えられます。

 いずれにせよ再度、肉眼的血尿があるかどうかということと、尿タンパク、血圧の推移に注意が必要です。

徳島新聞2003年7月6日号より転載

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