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【質問】 物が二重に見える

 63歳の女性です。物が二重に見えるので病院で診断してもらうと、重症筋無力症と言われました。検査の後、薬を服用してよくなっていたのですが、最近になって症状が出てきました。生活にも支障があり、困っています。この病気は完治できるのでしょうか。詳しく教えてください。



【答え】 重症筋無力症 -免疫抑制療法が効果的-

徳島赤十字病院 増田 健二郎

 重症筋無力症というのは、運動すると筋肉がすぐに疲れてしまい力が入らなくなる病気です。症状の出る部位によって、大きくは「眼筋型」と「全身型」に分けられます。

 眼筋型はまぶたが次第に下がってくる眼瞼(がんけん)下垂や、質問の女性のように物が二重に見える複視が主な症状です。全身型はこれらに加え、手足の筋力低下はもちろん、噛んだり、飲み込んだりするのに障害が起き、食事が取れなくなります。さらに呼吸筋の障害が起きると、呼吸困難にもなります。

 原因は、血中に神経や筋接合部に対する抗体(抗アセチルコリン受容体抗体=抗AchR抗体)があって、神経の命令が筋肉に伝達されるのを邪魔するためで、胸腺がこの抗体の産生にかかわっています。

 検査は、テンシロンテスト(注射により一時的に筋力が回復する)や誘発筋電図検査(反復電気刺激により筋電図の振幅が減少する)が行われます。血中に抗AchR抗体が証明されるとより確かになります。診断は前述のように変動する筋力低下とこれらの検査によって行います。さらに本症は胸腺の異常を伴うことが多いので、胸部のX線やCT検査も必要です。

 治療は全身型では胸腺異常の有無にかかわらず、まず胸腺摘出術が行われます。最近では、眼筋型でも手術を行うことが多くなっています。薬では以前から、抗コリンエステラーゼ剤(マイテラーゼ、メスチノン、ウブレチド)が薬効の強さや時間によって使い分けられます。眼筋型では、この種類の薬のみで治療される場合もあります。しかし、これはあくまで対症療法で、より病態に近いのは抗体の産生を抑える免疫抑制療法です。免疫抑制剤として副腎皮質ステロイドが最も効果的で広く使われますが、効果が十分でなかったり、副作用で減量が必要だったりする場合は、他の免疫抑制剤(これらのうちプログラフが保険適応になっている)も使用されます。

 症状が急激に悪くなったときや、他の免疫抑制剤の効果が出るまでの治療としては、血中の抗体を物理的に除去する血液浄化療法があります。これは血液を体外循環させ、フィルターや吸着剤で抗体を取り除き、血液をまた体に返します。この療法は比較的、早い効果が得られます。

 日常生活では、感染症やストレスは症状を悪化させるので注意が必要です。また、ある種の薬(一部の抗生物質、安定剤、麻酔剤、抗不整脈剤など)も症状を悪くすることがあるので、他の医療機関を受診する場合は医師に自分が筋無力症であることを告げてください。

 本症は完治し難い病気ですが、胸腺摘出術が行われた後はどんどん進行することは少なく、投薬の必要がなくなっている方もたくさんいます。各人の抗AchR抗体の増減はその人の病状をよく反映します。長く付き合っていかなければならない方も多いので、国の特定疾患に指定されており、申請すれば医療補助が受けられます。また、患者会も組織され、情報の交換などが行われているようですので、担当医や保健所などに相談されるとよいと思います。

徳島新聞2003年1月12日号より転載

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