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【質問】 歩くと体が揺れる

 77歳の男性です。3年ほど前、洗濯物を干すときに頭が土の中へ吸い込まれるように感じ、それ以来、歩くと体が少し左右に揺れるようになりました。また、体が傾きかけると倒れるようになり、元の姿勢に戻しにくくなりました。ズボンをはくときは、壁や柱にもたれないと転んでしまうようになりました。年のせいでしょうか。それとも、自律神経失調症や平衡障害なのでしょうか。



【答え】 運動失調とめまい -意識障害などに注意-

阿南共栄病院 脳神経外科部長 戎谷 大蔵

 質問は、「運動失調」と「めまい」に関連しているようです。「体が傾きかけると倒れる」「ズボンをはくときに転ぶ」などは、運動失調と考えられます。また、「洗濯物を干すときに頭が土の中に吸い込まれるようだった」とあるのは、首を反らしたときに生じたことを考えれば、頸椎(けいつい)性めまいや良性頭位変換性めまいなどが考えられます。それぞれについて説明しますので、心当たりのある科で受診するようにしてください。

【運動失調】

 「筋力は正常だが、運動の協調性(バランス)が失われた状態」と定義され、3種類あります。<1>両足をぴたっとそろえて直立した後、目を閉じるとバランスが崩れるのが、深部感覚障害性運動失調です<2>直線の上を歩くときに、片足のつま先に反対のかかとをくっつけ交互に歩くと転びやすくなるのが、小脳性運動失調です<3>平衡障害(めまい)が主の症状で、手足運動の協調性が保たれているのが前庭(ぜんてい)性運動失調です。これは、回転性めまいや耳鳴りを伴うことがあります。<1>と<2>が多いので、この2つを詳しく説明します。

 <1>深部感覚障害性運動失調 深部感覚障害というのは、自分の手足の筋肉や関節からの位置に関係する情報が脳に正確に伝わらない状態です。このため、目からの位置情報に頼ることになり、目を閉じたとたんにバランスが狂います。歩くときに足下を見つめ、一歩ごとによろめき、かかとを地面にたたきつけるような歩き方をします。脊髄後索(せきずいこうさく)、末(まっ)梢(しょう)神経、視床、頭頂葉の深部感覚の経路の障害によって、この失調が生じます。

 <2>小脳性運動失調 小脳は意図した運動がスムーズにできるように数種類の筋肉を調節する仕事をしています。障害が起きると▽自分の思った位置にうまく手足が運べない▽手足が震える▽運動を繰り返すときのリズムが悪い▽運動開始の遅れ-などが生じます。小脳性運動失調は、延髄、橋(きょう)、中脳などの脳幹や前頭葉の障害でも生じます。

 質問の男性は、一度バランスを崩しかけると目を開いていても立ち直れないことが多いようなので、小脳性運動失調の可能性が高いようです。<1>と<2>を起こす病気は脳卒中、感染症、中毒、変性疾患、腫瘍(しゅよう)など多岐にわたります。神経内科や脳神経外科の医師に相談してください。

【めまい】

 ぐるぐる回る感じがする「回転性めまい」、体がふわふわする「めまい感」の2つに大別されます。「回転性めまい」は、先に述べた良性頭位変換性めまい、「めまい感」には頚椎性めまいや頭頚部外傷後のめまい、心因性のめまいなどがあります。

 対応する診療科は多く、「回転性めまい」や良性頭位変換性めまいは主として耳鼻咽喉科で、「回転性めまい」と「めまい感」の両方を診るのは神経内科や脳神経外科です。頸椎性めまいや頭頚部外傷後のめまいは整形外科や脳神経外科で、心因性のめまいは心療内科や精神神経科をお勧めします。

 注意したいのは、めまいに引き続き、意識障害、激しい頭痛、半身麻痺(まひ)、視野や言語の障害などが生じた場合です。それは、脳卒中の可能性が高いので直ちに医師に相談してください。

徳島新聞2002年4月14日号より転載

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