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【質問】 胃を中心に強い不快感

 72歳の主婦です。2年前に乳がんの手術を受けました。初期のがんで、術後は薬も出ず3週間で退院、その後3カ月に一度通院していました。ところが最近、CTを撮ってから、1カ月に一度通院するように言われました。再発も転移もないとのことでしたが、その後1カ月して胃の辺りから上腹部、背中、胃の裏側にかけて不快感があり、最近特に強くなっています。また朝起きたときに、だ液が赤い色(血液の色)をしています。病院で胃カメラによる検査をしましたが、異常ないとのことでした。なぜ、不快感があるのでしょうか。乳がんとの関係はないのでしょうか。



【答え】 乳がんの術後 -他臓器からの症状では-

徳島大学医学部 第二外科講師 駒木幹 正

 ご相談を要約すると次の4点にまとめることができます。 <1>初期の乳がんで術後2年間、3カ月ごとに受診され、薬剤による治療は受けなかった<2>CT検査を受けてからの治療は不明<3>現在、胃を中心として強い不快な症状が続き、だ液に血液らしいものが混じる<4>胃カメラでは異常がないといわれた。

 〈初期乳がんの術後治療〉

 乳がんの治療では、術後の再発や転移を極力抑えるために、術後、がんに有効とされる薬剤を半年から2年間投与することがあります。しかし、患者さんにみられた乳がんの状態(がんの臨床的な進行度やがんの性質)から再発・転移の可能性がかなり低い場合には、行わないこともしばしばあります。一般的に、初期の乳がんでは、術後の薬剤による治療はしません。また、閉経後の早期乳がんに対しては、化学療法剤の投与はせず、抗ホルモン剤を投与します。

 〈乳がんと消化器症状の関係〉

 まず、乳がんの転移や再発で、消化管(食道や胃、腸)に症状が出るのか、という問題です。乳がんの胃への転移は極めてまれで、臨床的に乳がんが食道や胃、腸に転移することはないと考えて差しつかえありません。しかし、消化管に隣接するリンパ節や肝臓への転移が原因で、消化器症状が出ることがあります。この場合はCT検査で容易に診断が可能です。

 以上の点から、現在のあなたの症状は乳がんと関係ないように思われます。むしろ上部の消化器や肝臓、すい臓からくる症状ではないでしょうか。このため、担当医になぜ受診間隔が1カ月になったのか、今の症状が何に基づくのかをお尋ねになるべきです。

 〈自分の病状の把握〉

 私が担当している乳がんの患者さんに日々、再発、転移に強い不安を抱いている方が大勢います。命にかかわることですから当然です。しかし、一口に乳がんといっても、状態は患者さん一人ひとりで全く違うことを理解してください。決して右へ習えではありません。担当医から病状の十分な情報を得て、納得された上で担当医の指示に従いましょう。

 そして納得がいかない場合は、いつでも気軽に他の専門医の意見(セカンドオピニオン)を聞くことが大切です。この場合、必ず担当医にそのむねを伝え、紹介状を書いてもらうことが肝要です。

 〈医療を受ける姿勢〉

 わが国の医療はこれまでパターナリズムといって、医師の指示に従い、すべてを医師にゆだねるという姿勢がとられてきました。これでは、患者さんや家族が病気と対決していくに当たって、医療を受ける際の自己決定権が保障されません。このため、現在では積極的に医師の説明を十分に受け、患者さん自身も病気に対する知識を深めて、医師、家族とともに最善と考えられる医療を選択していくべきだとされています。

 この方法を理想的に進めるためには、患者さんや家族がある程度病気に対する知識を持つことがとても大切です。また、場合によっては患者さんに病状の説明を伏せ、家族が代わりに説明を受けることもあります。このような場合は、家族と医師が十分に話し合い、双方で患者さんを支える姿勢が欠かせません。

徳島新聞2000年6月25日号より転載

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