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【質問】 激しい眠気と脱力感

 62歳の女性です。5年ほど前から昼間、瞬間的に激しい眠気に襲われるようになりました。神経科を受診したところ「眠いときは寝たらいい」と医者に言われ、それに従ってきました。ところが最近、瞬間的な眠気に加え、激しい脱力感に襲われるようになり、再度、病院で脳波とエックス線検査をしました。異常はなかったのですが「ナルコレプシー」の疑いがあるといわれ、薬を飲んでいます。今でも人との会話中や食事のとき、急に声を掛けられたときなどに、突然、全身の力が抜けて崩れ込みます。こんな症状が1日に2~3回あります。よい治療法はないでしょうか。



【答え】 ナルコレプシー -中枢神経刺激剤が有効-

徳島大学医学部 神経精神医学講座講師 大蔵 雅夫

 不眠症は、5人に1人がかかっているといわれるほど代表的な睡眠障害です。反対に過眠症という睡眠障害もあります。過眠を訴えて受診される患者さんの多くは、周囲の人に「怠け者」と思われ、悩んでいる場合が多いようです。ご相談の「ナルコレプシー」は、この過眠症の一つです。

 ナルコレプシーの4つの特徴として、従来から睡眠発作、情動性脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺(まひ)が挙げられています。

 睡眠発作は突然起こる強烈な眠気で、この病気の最も基本的な症状です。商談中や入学試験のように、通常居眠りするとは考えられない状況でも、急に眠気に襲われ、数分から十数分眠り込んでしまいます。

 脱力発作は、笑う、怒る、驚く、得意になるといった強い情動を体験した際に、体の一部または全身の筋肉の緊張が急に失われるものです。

 入眠時幻覚は、就寝後まもなく、自分ではまだ眠っていないと思っているときに現実感のある鮮明な幻覚、たとえば、幻視や体を虫がはう感じ、何者かが体にのしかかってくるような感覚などを体験します。

 最後の睡眠麻痺は、入眠時に、自分ではまだ起きていると感じているのに、全身が麻痺して体を動かせず声も出せないという、いわゆる「金縛り現象」です。そのほか、夜間熟睡できず頭痛などを訴えることもあります。

 あくまでも基本症状は睡眠発作で、これに残りのいずれか、特に脱力発作があれば診断を確定できます。また、ある種の白血球組織適合抗原が陽性になることが多いので参考になります。

 この病気は、目覚めの状態からレム睡眠(浅い眠り)へ、もしくはその一部が現れた状態に急激に移行するために起こる、レム睡眠抑制機構の障害と考えられています。睡眠中の脳波検査で、入眠直後にレム睡眠が出現することが確認できます。

 レム睡眠中は骨格筋が弛緩(しかん)しますが、これが日中に起こるのが脱力発作で、夜間に起こったものが睡眠麻痺です。入眠時幻覚は入眠と同時にレム睡眠が出現し、夢と現実を混同してしまうものです。睡眠時無呼吸症候群や周期性傾眠症も日中の眠気を生じますが、病歴から容易に鑑別できます。

 治療法について述べます。ナルコレプシーは慢性疾患で、根本的な治療法はなく、対症療法が中心です。睡眠発作や日中の傾眠に対しては、中枢(ちゅうすう)神経刺激剤を朝と昼に服用します。中でもメチルフェニデートという薬は脱力発作にもある程度有効で、よく用いられています。夜間の睡眠が不十分なまま中枢神経刺激剤を必要以上に服用すると精神不安定になる場合があるので、必ず専門医の指示に従ってください。

 脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺には、レム睡眠を抑制する抗うつ薬が有効です。夜間熟睡ができないときには、短時間作用する睡眠導入剤を少量使用することもあります。また、半時間以下の短い仮眠でもそう快感があり、眠気がしばらくなくなるので、仮眠をとるようにすると中枢神経刺激剤を減らすことができます。

 日常生活でいかに眠気とつきあうか、職場や家族にどう理解してもらえるかなどについて、専門医の指導を受けることも大切です。

徳島新聞2000年5月28日号より転載

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