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【質問】 右手首から手先にかけ痛み

 62歳になる母のことで相談します。母は半年前に脳梗塞(こうそく)を患いました。医者には軽度といわれてますが、発病以来、右半身に障害が現れ、特に右手首から手先にかけては毎日激しい痛みが続いているようです。握力もほとんどゼロに近づいています。ときには頭痛もあり、何もすることができないほど日常生活に支障をきたしています。言語の障害はないようです。どんなリハビリをしたら症状が改善するのか教えてください。



【答え】 脳梗塞 -心のリハビリが最も大切-

佐藤病院 脳神経外科部長 吉嶋 淳生(徳島市仲之町2丁目)

 症状などから考えて、これは穿通枝(せんつうし)と呼ばれる小さな血管の梗塞によるものと考えられます。

 激しい痛みが続いているのは、脳の視床というところに梗塞があるためかもしれません。ここが障害を受けると、中枢性疼痛(ちゅうすうせいとうつう)と呼ばれる激しい痛みを感じることがあるからです。

 また、麻痺(まひ)している側は、筋力が低下するとともに関節部が拘縮し、関節炎などを併発している可能性があり、その痛みが加わっていることも考えられます。発作から半年経てば、一般的に症状は落ち着いてきているはずですが、握力の低下が続いているのは、廃用性麻痺(動かさないことで新たに生じる麻痺)が進んでいると考えられます。

 痛みがあるからといって手を動かさないでいると、筋肉の柔軟性と関節の可動域が低下してしまうため、ますます力が出なくなるという悪循環を起こします。精神的に落ち込んだり、意欲を失ってリハビリテーションをしなくなると、さらに悪くなってしまいます。

 頭痛もあるようですね。これは、麻痺側の筋肉の緊張が強くなることや、運動障害や感覚障害、手の痛みなどからくる精神的ストレスで、頚部(けいぶ)と側頭部の筋肉が絶えず収縮して起こる、いわゆる筋収縮性頭痛であると考えられます。

 一般に脳梗塞の患者さんは、下肢の治りの方が上肢より良いようです。下肢では約七割が何とか歩けるように回復します。しかし上肢は、実用的な手の動きを回復する人は2割ほどです。このため今後のリハビリテーションは、麻痺側だけでなく、左手でも何らかの作業ができるように訓練することも必要です。

 麻痺の程度にもよりますが、専門のリハビリテーション施設が整った病院で、理学療法士やドクターからその方法を教わって、家庭でも実行するようにしてください。またリハビリテーションだけでなく、特に高血圧や糖尿病などの合併症の管理と治療、中枢性疼痛への薬物療法、脳梗塞の再発防止に努めることが大切です。

 今、最も大切なことは、お母さんの意欲を盛り上げ、抑うつ状態に陥らせないようにすることです。肉体的なリハビリテーションとともに、精神的な心のリハビリテーションに取り組むことで、症状の悪化を防ぎ、今持っている潜在能力を最大限に引き出すことができます。

 苦しいとは思いますが、家族も協力してあきらめないことが肝心です。頑張りを期待しています。廃用性麻痺の進行という悪循環を断ち切りましょう。

徳島新聞2000年5月14日号より転載

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