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【質問】 唇が乾いて会話ができない

 68歳の女性です。10年間も抗うつ薬を飲み続けています。その薬のせいなのかよく分かりませんが、最初のころは口の中が渇いて、いつもアメをなめていないと会話ができませんでした。それが治まったかと思うと、今度は唇が乾き始めました。かかりつけ医からは「薬が原因ではない」と、皮膚科の受診を勧められ、みてもらいましたがどこも悪くなく、ワセリンをもらって塗っています。半年前からは、口が渇かないという新薬も試していますが一向によくなりません。抗うつ薬の副作用ではないのかと心配です。治す方法はないのでしょうか。



【答え】 うつ病 -初期と回復期に多い-

ますみクリニック 院長 福川 久継(徳島市大原町千代ヶ丸)

 唇が乾くと大変気持ちが悪いものです。「話しづらいし、人にも不快な感じを与えるから、外出するのが一層おっくうになった」などと訴えるうつ病の人もいます。

 ご指摘のように、唇の乾きは、口の中が渇いた状態がある程度続いた後に現れることが多いようです。口の渇きは、だ液の分泌が減ることで起きますが、このだ液量の調節は、自律神経の副交感神経の作用によって行われています。

 うつ病になると、精神症状だけでなく、さまざまな身体症状も現れます。主に自律神経の作用による疲労、けん怠感、頭痛、肩凝り、食欲低下、口の渇きなどです(表参照)。これらは、少なくとも精神症状が出る1ヶ月ほど前から現れます。うつ病の患者が内科などの一般科を受診するのもこのためで、ある報告によると、一般科の外来の1割はうつ病や抑うつ状態の患者だそうです。

 なぜうつ病で身体症状が現れるのでしょうか。それは、自律神経を調節する機構と、気分などの情動を調節する機構が、神経伝達物質などを通じて密接にかかわっているためだと説明されています。このため心や体に耐え難いストレスが加わった場合、普段は平常に保たれている心身機能が乱れ、身体的には自律神経症状が、精神的には感情に障害が起こってくるのです。

 身体症状は、うつ病の初期の段階や、回復期に現れることが多いようで、精神症状の方が強いときは、身体症状はそんなに強く出ません。もちろん病気が回復すれば現れることはほとんどありません。

 次に抗うつ薬の副作用についてお話しします。抗うつ薬は、劇的な効果を示すものではなく、徐々に効果が表れる薬です。この薬は、副交感神経に影響を及ぼす作用があるために、それに伴って自律神経症状も出てくるわけです。この症状は、抗うつの効果が表れるよりも先に出ますが、1週間程度で徐々に慣れてきます。

 昨年、こうした神経への作用が少ない新薬が発表されました。あなたの場合、それを服用しても、唇の乾きが一向によくならないとのことです。先ほども述べたように、うつ病で身体症状が現れるのは、病気の初期と回復期が多いとみられているため、あなたのうつ病は、そろそろ回復に向かい始めているのかもしれません。

 口の渇きに対して2~3の薬がありますが、人により効果はまちまちです。一方で、頻繁にうがいをしたり、お茶を飲んだり、リップクリームをつけたり、ガムをかんだりするなど、患者さんもそれぞれ工夫されているようです。

 もし、精神症状が治まっても、口が渇くようであれば、糖尿病などのほかの病気も考えられるため、内科医に相談してみてください。

徳島新聞2000年2月6日号より転載

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