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【質問】 真夜中にたびたびおう吐

 6年生の孫のことで相談します。4年生のころからたびたび腹痛やおう吐を起こしています。おなかが痛いと言い出し、後にひどいおう吐に襲われ、出すモノがなくなっても胃液を吐き続けるのです。だいたい真夜中です。吐き気が始まると眠り、翌朝にはけろっとしています。小児科では決まって風邪のウイルスでおなかをやられたんでしょう、との診断です。しかし、あまりにたびたびですし、同じことの繰り返しなので、ほかに原因があるのではないかと気になっています。4年生の3学期から今までに12回もありました。何か考えられることがあれば教えてください。赤ん坊の時から何かにつけよくおう吐する子であったこと、2~3歳ごろから数年はよく腹痛を起こし、すっかり治まっているのですが、反腹性臍疝(さいせん)痛との診断を受けていました。



【答え】 アセトン血性おう吐症 -大人になると症状軽減-

水井医院 院長 水井 三雄(板野郡藍住町勝瑞)

 腹痛、おう吐は小児にはよく見られる症状です。その程度もさまざまで、単に腹痛だけを訴えて、身体をエビのように曲げて一時的に歩かなくなることもあります。

 2~3歳のころからよく腹痛を起こし、反復性臍疝痛の診断を受けられていたそうですが、おそらく一過性で、腹痛が治まると、元気に遊んでいたことと思われます。感受性の強い子どもに多く、学齢期になると治ってしまいます。

 病的な強い腹痛には、乳児では腸重積症、嵌頓(かんとん)ヘルニアなど、幼児で虫垂炎、血管性紫斑(しはん)病、腹性てんかん、急性腹膜炎、腎(じん)結石、ときに肺炎などがあります。これらの疾患による腹痛は、一過性には治まり難いものです。また、発熱、発疹(はっしん)、激痛などさまざまな症状を伴います。

 4年生のころから、たびたび腹痛、おう吐を繰り返しているようですが、「アセトン血性おう吐症」と思われます。

 この病名は、ほかに周期性おう吐症といわれたり、一般に自家中毒症ともいわれ、小児期におう吐を反復(腹痛もしばしば伴います)すると、この病名がつけられることが多いようです。

 ただし、その症状が一過性で反復性であるのが特徴的です。

 もちろん急性虫垂炎、腹性てんかん、血管性紫斑病、急性膵(すい)炎などの消化器の病気、脳腫瘍(しゅよう)や代謝性疾患との区別をはっきりさせる必要がありますが、これらの病気による腹痛、おう吐は一過性ではありませんし、反復性でもありません。

 ひどいおう吐におそわれ、出すものがなくなっても胃液を吐き続け、それも真夜中に多いそうですが、アセトン血性おう吐症は神経の過敏な子どもに起こりやすく、風邪や精神面の混乱、肉体的に疲れすぎたり、といろいろなストレスで起こるといわれています。

 アセトン血性おう吐症の子どもは心身が疲れている状態ですので、うとうと眠るようになります。そして夜吐くのは、胃袋も疲れてしまっている上、食物を腸に送ってくれない状態になるからといわれています。

 明らかな原因は不明ですが、疲れから身体の組織にブドウ糖の欠乏が起こり、エネルギー源の代わりとして脂肪が利用され、血液の中に脂肪の分解産物であるケトン体が増えて、尿にもアセトンが出るようになります。

 従って、本症の診断は、腹痛、おう吐が一過性で反復性であり、眠ると翌日には治まっているのが特徴的ですし、尿や血液中のアセトンを検査すれば確定します。

 治療はブドウ糖と水分の補給が主ですが、おう吐が激しく、食物がとれない状態の場合は、静脈内に直接輸液する必要があります。15歳以上になりますと、こういうことは起こらなくなってきますので、お孫さんの場合も次第に軽快されていかれるものと思われます。

徳島新聞1999年9月5日号より転載

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