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県民の皆さまへ

 いつも診ている子どもが急な発熱やけいれんを起こして救急病院にお世話になることがあります。このような時に、現在までの治療内容や病歴が救急担当医に正確に伝わったかどうか、また救急医がどんな処置をしたのか、気がかりなものです。こんな時に役に立つのが薬と一緒に渡してある薬剤情報です。

 救急医療の現場では忙しくて詳しく薬の説明が出来ないこともあると思いますが、そんな時でも薬局から薬と共に薬剤情報だけでも出してもらうと、その時の状況がかなり推測できます。

 薬剤情報には薬の名前はもちろん、その作用や副作用まで記載してあります。日常診療の中で自分の患者さんに薬剤情報を渡しておくと、救急医療の時ばかりでなく、耳鼻科や皮膚科など小児科以外の病院にかかる場合に随分と役に立ちます。

 薬剤情報は患者さんの薬に対する意識を高めるだけでなく、医者にとっても他の病院から処方内容を確認するのに役立ちます。また薬剤情報を出す時に、これをお薬手帳として渡しておいてもらうと、処方の順番がはっきり記録に残り、その患者さんの簡単な治療暦となります。
 薬歴を見てその上で患者さんに確認すれば、その人がどんな疾患を経験してきたのか、おおよそ推測が出来ます。

 患者さんに自分の病歴や薬歴を整理しておくように指導するのは大変ですが、調剤薬局ではお薬手帳を作ってくれます。病院にかかる度にこの手帳を利用するように指導すればりっぱな薬歴になります。薬剤情報を出さない病院を受診する時にも、お薬手帳に月日と薬の名前だけでも記載してもらうと後の記録として残ります。

 一人の患者さんの薬歴が手元にあると、薬の重複を避けることが出来るとともに、薬の副作用のチェックや飲み合わせにも注意することが出来ます。小児にはあまり使いたくない薬剤が使われていた場合などにも患者さんに注意することが出来ます。

 救急診療の時だけでなく日常診療の中でも薬に対して注意するようにしたいものです。

2002年9月17日掲載

 以前は病院で診察が終わればそこで薬をもらうことがあたり前でしたが、最近では病院からは処方せんをもらうだけで、薬は調剤薬局で受け取る院外処方が多くなりました。院外処方は患者さんにとって、手間も費用も少し余分にかかりますが、使い方によっては便利なものです。今月は薬についてお話ししたいと思います。

 患者さんによって薬に対する考え方は様様です。出来るだけ薬を使わないで病気を治して欲しいという人から、少しでも早く薬を使ってなるべく早く病気を治したいという人までいます。薬は診察の最終段階で最も治療を反映するものですが、その薬がどういう働きをして、なぜ必要なのかを理解しておくことが大切です。治療には、大きく2つに分けて原因療法対症療法があります。感染症を例にとりますと、細菌が原因の感染症に対しては、その細菌を殺す抗生物質が原因療法です。感染症にともなう発熱や咳などの症状を抑える解熱剤や咳止めなどの薬は対症療法です。従ってウイルスが原因の風邪に対して、抗生物質は原因療法にはなりません。ウイルス性疾患ではインフルエンザや水痘を除けば、ほとんどが対症療法になります。

 薬物療法を行う時、その薬が原因に対してどうしても必要なものなのか、症状が無くなれば中止しても良い薬なのかを十分に理解しておくことが大切です。発熱に対する解熱剤のように熱がある時のみ使用する薬が対症療法薬です。対症療法は症状が無くなればすみやかに中止します。反対に原因療法は目の前の症状が無くなっても一定期間は続けなくてはなりません。細菌感染症では熱が下がった時に解熱剤は中止しますが、抗生物質をすぐに中止することはありません。

 小児科を受診する子どもの多くは発熱を主訴とする風邪ですが、体力や抵抗力が落ちている乳幼児や、扁桃炎や中耳炎などの合併症がある時に抗生剤を使うことは当然です。しかしこのような場合でも治癒した場合には、出来るだけ早期に抗生物質を中止することは言うまでもありません。

2002年9月10日掲載

 小さな子どもの耳が聞こえているのかどうかを正確に判断することは簡単ではありません。「音に対する反応はありますか」と質問をしますと、ほとんどの人は「はい」と答えますが、大きな音には反応しても、小さな音や低い声に反応しているのかどうかは分からないことがあります。聴力の問題は言葉の発達と大きな関連があります。新生時期に難聴の有無を正確にチェックすることが大切だと考えられます。

 一般に難聴は数百人に一人の確立で出生すると言われています。また以下に述べるようなハイリスクの要因を持った子どもでは数十人に一人の確立になるとされます。リスク因子としては、遺伝子的難聴、胎内感染、頭部の奇形、低出生体重児、新生児仮死、重症の呼吸障害、重症の黄疸、重症の感染症やそれに使用した聴神経毒性の抗生剤などです。これらのハイリスクと呼ばれる新生児の聴力をチェックすることは当然ですが、ハイリスク児のみの検査では半数の聴力異常児を見逃すと言われています。従って、すべての新生児の聴力を検査することはとても大切なことです。

 最近では、産科で新生児の聴力検査をしている所が増えてきましたが、ハイリスク児以外は保険の対象外で、健康な新生児全員が検査を受けるには至っておりません。

 検査法にはABR(聴性脳幹反応)とOAE(耳音響放射)の二つの方法が使われていますが、それぞれ数パーセントの疑陽性が存在します。ABRは正確ですが器械の値段が高く、検査法がやや煩雑で時間がかかります。OAEは値段が安く簡単ですが、やや疑陽性の率が高いとされます。いずれにしても早期に聴力のスクリーニングを行い、再検査でも異常があれば精密検査を受けるようにしましょう。聴力障害は早期に発見して治療、教育の機会を与え、言葉の発達に障害が出ないように配慮する必要があります。今後、行政が新生児の聴力検査に補助を認めてくれるようになることを望んでいます。

2002年8月27日掲載

 思春期に至ると子どもが頭痛や腹痛などの症状を訴えることが多くなります。この時期には身長が急に伸びて、肉体の発達に神経の発達が追いつかない状態になり、その結果として様々な症状が見られるようになります。特に急に立ち上がった時に目の前が真っ暗になり、意識が無くなり、倒れてしまうようなことが起こるようになります。このような状態を起立性調節障害と言います。夏の暑い時期には身体がだるくてついつい夜更かしから生活も乱れやすく、起立性調節障害が発症しやすいと考えられます。

 急に立ち上がった時に一瞬意識が遠のき、目の前が真っ暗になることがあります。ひどくなると倒れてしまうこともあります。これが立ちくらみで、脳貧血と呼ばれる状態です。普通、立ち上がる時には自律神経の働きによって、下半身の血管が収縮して、上半身の循環血液量は保たれ、このような現象が起こることはありません。子どもが急に身長が伸び始めた時に、血管の収縮を支配する自律神経の発達が不十分な時に発生すると考えられます。従って、思春期だけでなく、身長が高く顔色が悪い痩せ型の子どもに多く見られると言われます。さらに普段からよく頭が痛いとかお腹が痛いだとかの訴えの多い子や、夜更かしで朝寝坊、朝食を抜く子などに多く見られ、さらに少し動いただけで心臓がドキドキし、熱い風呂に入るとのぼせやすく、車に酔いやすいなどの特徴を持っています。

 起立性調節障害の子どもたちは自分のペースで生活をしている限り何の問題もありませんが、夏休みが終わって2学期が始まった時に、自分の身体と学校生活の間に時差が生じると、学校生活が苦痛に満ちたものになります。立ちくらみや頭痛などがあまりひどいような場合には薬物療法を行うことも必要です。しかし元々は自律神経の発達途中に起こってきた一過性の症状であり、必ず治るものであることを知って、規則正しい生活を心がけることが大切です。

2002年8月20日掲載

 暑い炎天下、直射日光にさらされて立っているとめまいや頭痛とともに一瞬意識を失うことがあります。さらに吐き気をもよおしたり冷汗がでたりします。涼しい所でしばらく休んでいると元に戻りますが、この時に無理をして激しい運動や作業を続けると取り返しのつかないことになることがあります。今回は夏に多い熱中症についてお話しします。

 炎天下の車中に放置された乳幼児が死亡したとか、激しいスポーツの練習中に学生が倒れて死亡したというニュースに接することがありますが、これらはいずれも熱中症による事故だと考えられます。熱中症は予防の可能なものです。正しい知識をもって早期に診断し処置することで防ぎたいものです。

 直射日光の下で長時間、立っていると頭痛やめまいとともに一過性に意識が失われることがありますが、これを日射病と言います。日射病は皮膚表面が暖められることによって、末梢の血管が拡張して循環血液量が減少し、これに起立性の低血圧が加わって起こる症状です。早期に、涼しい所で頭を低くして安静にして、水分補給で循環血液量を確保すると、回復します。しかし、このような症状があるのに適切な処置をせずに放置したり、無理をして激しい作業や運動を続けますと、脱水症や多臓器不全などの症状を引き起こして死亡に至ることがあります。大量の発汗があると、水分と一緒に塩分を失い、ここで水分だけ大量に摂取しますと、体液は薄められて低調性の脱水症となります。こうなると水分を飲めば飲むだけどんどん悪化していきます。集中治療室での適切な治療を受けなければ、異常な高体温から神経症状や肝・腎障害などの多臓器不全を引き起こして死亡することがあります。これを熱射病と呼びます。熱中症の中で最も軽症のものが日射病、最も重症なものが熱射病です。

 熱中症は高温環境に体温調節の未熟な乳幼児を放置し、また無理して激しい作業や運動を続けることで発生します。熱中症に対する正しい知識を持って早期に処置し、その発生を予防することが大切です。

2002年8月13日掲載

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