日本産婦人科医会 徳島県支部         
 
乳癌検診の勧め 
  文責  鎌田正晴
 
  少子化や生活の欧米化により乳癌の発生は急激に増加し、この50年間で6倍に増えました。1994年からは胃癌を抜いて女性の癌で最も多い癌です。
現在、年間約4万人の女性が乳癌にかかり、1万人以上が亡くなっています(20人に1人が乳癌に罹り、1時間に1人亡くなっています)。

しかもお年寄りに発生しやすい他の多くの癌と異なり、乳癌は40代、50代の働き盛りの女性に発生するのが特徴で、30代?50代女性では部位別癌死亡率のトップです。
つまり女性にとっては、家庭的にも、社会的にも最も重要な癌と言えます。

 欧米ではさらに深刻で、乳癌患者数は本邦の約5倍にのぼります。
すなわち8人に1人が乳癌にかかり、その3人に1人が亡くなるという状態でした。

ところが最近では、乳癌にかかる女性は日本と同様に増えているのですが、乳癌で亡くなる女性は減ってきているのです(グラフ1を見てください)。
この理由は、欧米ではマンモグラフィによる乳癌検診が普及し(80%前後)、早期に乳癌が発見されるようになったからです。 

これらの事実を受けて本邦でも、平成16年から、40歳以上の女性に対しマンモグラフィ併用検診が導入されました。しかしその受診率は低く、職場での検診を含めても20%前後に留まっており、まだまだ死亡率は増え続けています。

 マンモグラフィという言葉はまだなじみが薄く、レントゲンを浴びることや痛みの問題などいろいろな質問を受けます。ここでは、代表的な質問への回答という形で皆様の疑問にお答えしたいと思います
  


視・触診による検診だけでは駄目なのですか?

 森本らがモデル事業として行った徳島県における乳癌検診の結果を紹介します。
通常の視・触診検診による乳癌の発見率は0.12%でしたが、マンモグラフィ検診では0.36%と3倍の発見率でした。
つまり視触診だけでは3人に2人の乳癌が見逃されるということです。しかもマンモグラフィ検診では、大きさが2cmまでの早期癌の発見頻度が95%とほとんどの癌が早期に見つかっており、そのため68%の患者さんで乳房温存療法が可能でした。
それに対し視触診のみで発見された癌では、早期癌が32%と、大半が2cm以上の大きな癌であり、乳房温存が可能であった症例は1例もありませんでした。 

これは宮城県や茨城県において行われた成績、あるいは欧米における成績と一致しています。
つまり視触診では見つけることの出来ない早期の癌を、マンモグラフィなら見つけることが出来るのです。


マンモグラフィは痛い検査だと聞いています。


乳房を2枚の板で挟んで撮影します。小さな癌を見つけやすいように良い写真を撮るためには、出来るだけ一定の厚みになるように広げることが必要であり、また薄くするほど感度が良くなります。
痛いほど良い写真が撮れるのだと考えて、少しの間我慢をして頂ければ幸いです。
また月経のある女性では、月経が始まって1週間目ぐらいに受けると痛みが少なくてすみます。

レントゲン(放射線)を浴びると癌になるのでは?


マンモグラフィ検査で乳房が受ける放射線量は、2ミリグレイ(吸収線量)、あるいは0.1ミリシーベルト(実効線量)程度です。
毎年浴び続けて身体に影響が出る放射線量は、年に500ミリグレイ、妊娠中に浴びて胎児に奇形などの異常が出る量は100ミリグレイと言われています。
また広島や長崎などの原爆被爆者を調べた成績でも、400ミリシーベルト以下の人達には癌の誘発は起こっていません。

実際マンモグラフィによる放射線量は、東京からニューヨークに旅行したときに浴びる自然放射線量(宇宙線や地球そのものが出している放射線)の約半分であり、いかに少ない量であるかがお分かりになると思います。

 乳癌が見つかって余命が延長する利益と、マンモグラフィを受けることによって乳癌が発生する不利益とを比較した沢山の研究がありますが、30歳以上では、毎年マンモグラフィ検診を受ける利益の方がずっと大きいと言うことが分かっています。


超音波検査(エコー)もあると聞いています。

超音波検査でも、視触診で見つからない早期の癌を発見できます。特にしこりを作ってくるタイプの癌には有効ですが、石灰化(癌の中にカルシウムが貯まってくる)主体の癌を見つけるのは難しいようです。

しかしマンモグラフィでは判りにくい乳腺の多い人(若い女性に多い)でも乳腺内の観察が出来ること、痛みもなく簡単に出来ることなど極めて有用な検査です。

このようにそれぞれ利点と欠点があり、理想的には両方の検査を受けることが望ましいと考えます。

ただし検診事業としては、客観性があり、精度管理がしやすいこと、死亡率減少効果が明らかになっていることから、マンモグラフィ併用検診が行われることになっています。


どの病院でもマンモグラフィ検診が受けられるのですか?
 

マンモグラフィ撮影装置を備えている施設であれば検診は可能です。ただし、マンモグラフィ併用検診では精度管理中央委員会の定めた基準があります。

 精度管理中央委員会(精中委)とは、マンモグラフィ併用検診の導入に当たって、検診のレベルを高めるために厚生労働省が認知したシステムです。日本乳癌検診学会を中心に、日本乳癌学会、日本産婦人科学会など6学会で構成され精度管理に当たっています。

精中委では、マンモグラフィ撮影装置の仕様基準を設定し、撮影に当たる放射線技師と読影医の養成を行っています。
この3つの基準を満たしている施設では、精度の高いマンモグラフィ併用乳癌検診が期待できます。


子供を産んでいないので乳癌になりやすいと言われていますが、本当ですか?


 本当です。 乳腺組織は思春期になって発育を始め、妊娠と授乳によって完成します。
癌はいろいろな発癌因子によって遺伝子に傷が付くことにより発生しますが、乳腺の場合は発育途中が最も傷が付き易く、一度完成してしまうと傷が付きにくくなります。
つまり思春期が始まってから子供を産むまでの期間が長ければ長いほど乳癌になりやすいのです。
長田らは、24歳未満に子供を産んだ女性に比べ、30歳過ぎて産んだ場合は1.7倍、35歳過ぎて分娩した女性では2.3倍乳癌になりやすいと報告しています。
子供を産んでいない女性は当然それより危険性が高いといえます。逆に3人以上子供を産んだ女性は、産んでいない人の約半分の危険性となり、6人以上産むと3分の1になります。
 遺伝的に傷が付きやすい家系があります。ですからお母さんや姉妹に乳癌に罹った人がいる女性は、家族に患者がいない女性に比べ乳癌になりやすいことが判っています。
アメリカでは、家族に1人乳癌患者がいると2.2倍、2人いると4.7倍になると報告されています。
 表に、乳癌になりやすい条件(危険因子)をまとめました。

 
自己検診をしていれば大丈夫でしょうか?

  自己検診は、マンモグラフィと視触診の併用検診に変わるものではありません。
あくまでもマンモグラフィ併用検診を補完する健康管理の一貫と位置づけられており、そのため最近では「自己検診」から「自己触診」と言い換えられています。
しかしマンモグラフィ併用検診も含めて、全ての乳癌を見つけることの出来る検査はなく、検診と検診の間に見つかってくる中間期乳がんも少なからず存在します。そのためマンモグラフィ併用検診をきちんと受けた上で、月1回の自己触診を行うことが必要なのです。

 乳癌は治りやすい癌です。他の癌の場合、治療成績は5年後の生存率で評価されるのに対し、乳癌では10年生存率で評価されることからも判ります。
しかもその治療成績は、早期(しこりの大きさが2cm以下)に見つければ90%以上です。

治療法も、やはり手術が中心ですが、その他、放射線や抗癌剤、ホルモン治療などいろいろな方法があります。
マンモグラフィや超音波を使って早期に見つけることが出来れば、他の治療法を組み合わせることによって、癌のところだけを取って乳房を残す温存手術も可能になります。

表に挙げた乳癌になりやすい女性は、当然乳癌検診を受ける必要がありますが、そうでない女性も、自分自身のために、また家族のために積極的にマンモグラフィ併用検診を受けることをお勧めします。
 
 


                                                           

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