徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

【質問】 くしゃみ・歩いても漏れる

 48歳の女性です。20代で第1子を出産後、くしゃみをした際などに尿漏れをするようになりました。30代半ばで第3子を出産してからは、走ったり重い荷物を持ったりすると尿漏れし、3年ほど前からは、歩くだけでも漏れているときがあって、非常に困っています。治療法はあるのでしょうか。



【答え】 出産後の尿漏れ -診断後に治療方法選択-

川島病院 泌尿器科 西谷 真明(徳島市北佐古一番町)

 出産後に始まる尿漏れでお悩みの方は多いようです。このように意図しないのに尿が漏れ出し、日常生活を送る上でも衛生的にも支障を来すものを尿失禁といいます。

 腎臓でつくられた尿は、尿管というパイプを通った後に膀胱(ぼうこう)で蓄えられます。尿が蓄えられているときには、袋状の構造をした膀胱は充分にたるみ、かつ、膀胱から体外へ尿が出される際の通り道である尿道はぴったりと閉じられています。尿失禁の患者さんはこのような膀胱や尿道の、尿を蓄える機能に問題があります。特に、女性は男性と比べて尿道が短いため、尿失禁を生じやすいと考えられています。

 尿失禁には<1>尿道を支える骨盤の筋肉や尿道を締める筋肉が弱くなり、くしゃみや咳(せき)など腹圧が上昇したときに尿漏れを起こす腹圧性尿失禁<2>尿を蓄えているにもかかわらず膀胱の筋肉が勝手に縮んでしまうため、強い尿意を感じてトイレまで排尿を我慢できずに尿漏れを起こしてしまう切迫性尿失禁<3><1>および<2>の両方を伴う混合型尿失禁-などがあります。

 女性の尿失禁の多くはこれら三者のいずれかで、これらの尿失禁であれば通常、尿漏れ以外に全身的には問題となることはありません。とはいえ、頻度は低いものの腎臓の機能に障害を与えるような尿失禁のタイプもあり、診断には注意を払わなければなりません。

 ご相談内容から、あなたの場合は<1>の腹圧性尿失禁と考えられます。出産が骨盤の尿道を支える筋肉に影響して腹圧性尿失禁の原因となることがあり、腹圧性尿失禁は女性の尿失禁の約半数を占めています。

 尿失禁の治療を行う際にも正確な診断が必要となりますが、それを前提として、ここでは腹圧性尿失禁の治療についてお話をさせていただきます。

 尿漏れの頻度や量が少ない、軽い腹圧性尿失禁の場合には、まず手術以外の方法が試されます。膀胱の緊張を和らげる薬や尿道を締める薬を用いる以外にも、尿道を支えている骨盤の筋肉の緩みを矯正する骨盤底筋体操が有効と考えられています。また、肥満を有する患者さんにはダイエットが効果的な場合があります。

 これらの治療が無効な腹圧性尿失禁の患者さんには手術が考慮されます。現在、最も広く行われている手術は、人工のテープで尿道を支える方法で、比較的体に負担が少なく効果が優れているとされています。また、患者さんの状態によっては、テープを用いる方法より効果は劣るものの、より体に負担の少ない内視鏡で尿道内にコラーゲンを注入する手術が選択される場合もあります。

 あなたの場合、歩くだけでも尿が漏れているときがあるとのことで、比較的症状が重い腹圧性尿失禁であることが予想されます。治療には手術が必要となるかもしれませんが、尿漏れで非常にお困りとのことですので、一度泌尿器科専門医にご相談されることをお勧めいたします。

徳島新聞2008年12月14日号より転載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.