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【質問】 胃癌かす 除去必要

 73歳の女性です。3年近く前に胃癌(がん)になり、胃の上部を残し、4分の3を摘出しました。癌は2センチほどで硬くなく、大丈夫だと説明がありました。しかし、昨年11月の検査で胃にかすが残っていると言われ、胃カメラで排除しました。今年5月のバリウム検査でも、ウコッケイ大の繊維状のかすがあると言われました。胃に痛みはありませんが、苦い黄色い液が出るので、食事も間食も控えめにしています。糸のような細いものでも、一本引っ掛かると、それにまとわりついて大きくなっていくと言われ、神経質になっています。便は、普通便、便秘、下痢の繰り返しです。半年ごとに胃カメラで排除するしかないのでしょうか。



【答え】 胃石 -摘出か破砕が有効-

徳島赤十字病院 外科 石川 正志

 質問の趣旨は、胃癌の手術後に再発はみられないものの、胃の中にニワトリの卵大のかすのようなものができ、胃の不快感もあるため内視鏡で除去しているということだと思います。

 胃の中にできたかすは、胃石といわれるものの前段階と推測します。胆嚢(たんのう)に胆石ができるように、胃の中にも食物や異物が不溶性となり、硬い石のようになって胃石が形成されます。胃石は10センチくらいにまでなることもありますが、胆石症に比べ、それほど多い病気ではなく、国内では年間に数十例報告されている程度です。

 胃石はそれを構成する成分により、毛髪胃石、植物胃石、混合胃石に分類されます。毛髪胃石は欧米で多く、国内では過去に数十例の報告しかありません。ほとんどが女性で、たいてい精神的なストレスなどで、自分の髪の毛を飲み込むことにより、胃の中で髪の毛が固まって石となったものです。

 一方、国内では植物胃石が圧倒的に多く、その中でも柿胃石が70%を占めるといわれます。柿胃石の形成システムはいまだにはっきりしていませんが、柿渋の主成分であるシブオールが胃酸により可溶性から不溶性に変化し、これが食物のかすと一緒に凝固してできるといわれています。従って柿を長い間食べている人のほかにも、たくさん食べた後に急にできることも考えられます。

 これまで報告されている胃石の多くは健康な人にできていますが、質問者のように胃を切った人や糖尿病などで自律神経障害がある人にもできやすいと考えられます。なぜかというと、これらの患者では胃から食物が腸へ流れ出すのが遅く、これが柿胃石をはじめとする胃石形成の最大の原因となっているからです。

 胃石の診断は比較的容易で腹部超音波検査やCT検査であらかた診断がつき、胃内視鏡検査で確定診断できます。しかし、先ほども述べたように、胃石の頻度は少ないためわれわれも日常の胃内視鏡検査で胃石に遭遇することは、それほど多くありません。しかし、胃石は胃潰瘍(かいよう)や腸閉塞(へいそく)を合併することがあるので、発見されれば何らかの方法で取り出す必要があります。

 通常、胃を通過した消化管内異物は肛門(こうもん)から自然に排出されますが、胃石のうち、約10%程度が腸に引っ掛かり腸閉塞となることがあります。このような場合は、外科的処置が必要となります。また胃石症例のうち、20~30%くらいに胃潰瘍ができるといわれ、これも胃石による圧迫や、胃の内容物の排出遅延が原因と考えられます。


 胃石の治療としては薬による溶解療法、内視鏡的治療、外科的治療があります。このうち薬による治療は、予防も含め、ほとんど効果がなく、まず内視鏡的に胃石を摘出するか、もしくは砕く治療が有効です。もし腸閉塞などを起こした場合は、外科的治療が必要になります。また柿以外に胃石の原因となるような食物で明らかなものはないようです。

 従って、残念ですがしばらく定期的に胃内視鏡検査を受けて、胃の内腔(ないくう)を手術でつなぎ合わせた部分を含めてよく観察してもらい、胃石があれば、そのときに除去してもらうのがよいと思います。なお、便通に異常があるようですが、これは胃石によるというよりは、胃を切ったことに関係していると思われますので、主治医とよく相談されることをお勧めします。

徳島新聞2003年7月13日号より転載

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