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【質問】 かゆくてたまらない湿疹

 26歳の孫(男性)のことで相談します。高校時代からアトピー性皮膚炎がひどくなり、頭皮や体、顔にも湿疹(しっしん)が出て、とてもかゆくてたまらないようです。長く医者にかかり、錠剤を飲んでいますが完治せず、最近は症状が目に現れ始め、目やにが出たり、かゆみもあるようです。 眼科で診察を受けましたが、アトピー性皮膚炎の影響だろうと、目薬をくれただけです。かゆくて眠っている間にかきむしってしまうため、白い手袋をはめ、目には包帯を巻いて寝ています。アトピー性皮膚炎に効くということはいろいろ試してみましたが、どれも効果がありません。良い治療法はないのでしょうか。



【答え】 成人型アトピー性皮膚炎 -日常生活の改善から-

小松島赤十字病院 皮膚科副部長 浦野 芳夫

 質問を推察しますと、成人型のアトピー性皮膚炎と思われます。アトピー性皮膚炎はここ10年余りの間で大きく変化しています。私が新米医師のころは、「アトピー性皮膚炎は子どもの病気で大人になれば治る」と教わり、患者さんにもそのように説明したものですが、最近では小児期のアトビー性皮膚炎が治癒せず、成人型に移行する例や、思春期以降に発症する例がよく見られます。

 成人型アトピー性皮膚炎が増加した原因として環境や食生活の変化、ステロイド外用剤の不適切使用などが考えられていますが、詳しいことは分かっていません。

 アトピー性皮膚炎の発症には、アトピー素因という遺伝的背景が関係しています。アトピー素因とは、専門的にいえば、タンパク質の一種である「IgE抗体」をつくりやすい体質で、気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患になりやすい体質ということができます。

 しかし、アトピー素因のみでは発症せず、何らかのアレルゲン(アレルギーを起こす物質)が作用し湿疹になると考えられています。成人型の場合は、ダニ、カビ、花粉、ペットの毛などの環境アレルゲンが関与していることが多いようです。アレルゲンを見つけるために血液検査などを行いますが、血液検査で異常値を示すものすべてが湿疹の原因とは限りません。

 さらに、アトピー性皮膚炎には、アレルギー以外の要因も重要であることが分かっています。アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚は湿疹のない部位でも乾燥し、バリア機能(アレルゲンなどを防ぐ機能)が低下しています。そのため外的刺激に敏感になり、炎症が起こりやすいのです。

 また発疹が受験や仕事などの精神的ストレスで悪化し、ストレスがなくなればよくなるということは日常診療の場で経験します。患者さんはかゆみのためよくかきますが、それほどかゆくないのにかいてしまうという掻破(そうは)癖を持った方もいます。アトピー性皮膚炎はかくことによっても悪くなります。

 最近、アトピー性皮膚炎の患者さんに白内障や網膜剥離(はくり)などの目の合併症が問題になっています。顔面、特に目の周囲の湿疹やアレルギー性結膜炎があると、かゆいために目をこすったりたたいたりするため、目の合併症につながるといわれています。質問の患者さんも顔面の湿疹が重そうですので、定期的に眼科での診察が必要と思われます。

 現在、アトピー素因の体質を変える治療法はありません。従ってアトピー性皮膚炎の治療はまずアレルゲンを見つけだし、その除去を心がけますが、現実的にはそれはど簡単ではありません。保湿剤などでのスキンケアで皮層のバリア機能を補強することも非常に大切です。ストレスやかくという行為などの憎悪因子を減らすことも重要です。

 そのためにはライフスタイルを見直す必要もあります。多様な憎悪因子を減らしつつ、抗アレルギー剤などでかゆみや炎症をコントロールします。炎症症状の強い場合はステロイド外用剤の使用もやむを得ません。紫外線療法を行うこともあります。

 しかし、残念ながらアトピー性皮膚炎を完治させる治療法はまだありません。従って治療の目標は治癒ではなく、日常生活に支障のない状態へ持っていくことです。信頼できる医師のもとで根気よく治療していくことが大切です。

徳島新聞1999年7月4日号より転載

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