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【答え】 胃切除後貧血 -ビタミンB12欠乏 検査を-

徳島市民病院 内科医師 橋本年弘

 貧血の検査には赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリットがあり、これらの数値から赤血球恒数と呼ばれる指数が分かります。指数には、平均赤血球容積(MCV=赤血球1個の平均の大きさ)、平均赤血球血色素量(MCH=赤血球1個に含まれるヘモグロビン量)、平均赤血球血色素濃度(MCHC=赤血球に含まれるヘモグロビンの割合)の3つがあります。

 MCVの大きさによって、貧血は小球性・正球性・大球性に分けられます。小球性貧血の代表は鉄欠乏性貧血であり、大球性貧血には巨赤芽球性(きょせきがきゅうせい)貧血と呼ばれるビタミンB12欠乏性貧血や葉酸欠乏性貧血があります。正球性貧血には多くの病気があり、鑑別が必要です。

 ご相談の方の血液検査の結果は正球性貧血ですが、30年以上前に胃を3分の2切除した後、16年前から慢性貧血があることから、胃切除後貧血が考えられます。

 赤血球を合成するためには、鉄やビタミンB12、葉酸が欠かせませんが、胃切除後の長期経過中には、ビタミンB12・葉酸・鉄欠乏を来すことがあります。胃切除後には胃酸分泌が減少し、鉄の吸収が低下します。

 また、食事で摂取したビタミンB12は、胃粘膜から分泌される内因子(ないいんし)と呼ばれる糖タンパク質と結合し回腸末端で吸収されるため、ビタミンB12の吸収には胃粘膜で分泌される内因子が必要です。このため、胃切除後や自己免疫による疾患、萎縮性胃炎では、内因子が不足してビタミンB12欠乏に至ることがあります。ただし、ビタミンB12は肝臓で貯蔵されているためにすぐに貧血になることはなく、数年後に症状が現れてきます。

 このように、胃を切除した後に鉄やビタミンB12の吸収が不足すると、赤血球の産生に支障を来し、貧血が起こることがあります。また、ビタミンB12欠乏では貧血に加えて消化器症状や神経症状を来すこともあり、適切な治療や予防が重要です。

 胃を全切除すると、ビタミンB12欠乏は必ずと言っていいほど発生し、無治療の場合は平均5年で貧血が起こるといわれています。このため、胃の全切除後はビタミンB12の定期的補充を行います。一方、胃の部分切除後では数%とされ、ビタミンB12の補充は必須ではありませんが、ビタミンB12欠乏の可能性を考えて経過観察をすることが必要です。

 胃切除後に起きるビタミンB12欠乏に対しては、内服の有効性も報告されていますが、注射(非経口投与)が原則です。数カ月ごとの補充を生涯続けることが必要です。貧血の改善が不十分な場合には、鉄欠乏が起こっていることがあります。この場合には鉄補充を行います。

 ご相談の方は、鉄分、葉酸に異常はみられないことから、ビタミンB12欠乏の可能性もあり、一度検査を受けられてみてはいかがでしょうか。また、消化管の潰瘍や腫瘍、慢性出血など、ほかの病気が隠れていることもありますので、切除後に定期的に検査を受けることも大切です。

徳島新聞2010年8月29日号より転載

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