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【質問】 服薬、食事療法で改善せず

 30代の男性です。胸焼けや下腹部の痛みがあり、病院で「食道裂孔ヘルニア」と診断されました。服薬と食事療法を行うように言われて続けていますが改善しません。他に治療法はありませんか。



【答え】 食道裂孔ヘルニア -他の原因 考える必要も-

美馬内科クリニック 美馬伸章(徳島市大原町)

 私たちの体の胸部と腹部は、横隔膜という筋肉でできた膜によって隔てられています。食道、大動脈、大静脈などは、横隔膜に開いた穴(裂孔)を通って胸部から腹部に連なっています。このうち食道が通る穴を食道裂孔と呼んでいます。食道裂孔ヘルニアとは、本来なら腹部にある胃の一部が食道裂孔を通って胸部に入り込んでしまった状態をいいます。

 原因は生まれつきの場合もありますが、多くは加齢によるものです。肥満だったり背骨が曲がったりしている場合や、喘息(ぜんそく)や慢性気管支炎などの咳(せき)による腹圧の上昇も原因とされています。

 食道裂孔ヘルニアがあっても多くの場合は無症状です。しかし、その成り立ち上、胃液を含む胃の内容物が食道に逆流しやすく、胸焼け、胸の痛み、つかえ感などの自覚症状が見られることもあります。

 食道裂孔ヘルニアの有無にかかわらず、胃内容物の食道への逆流による症状で日常生活に障害を来した状態を胃食道逆流症(GERD)と呼びます。また、胃内容物の逆流により食道粘膜が傷ついた状態を逆流性食道炎と呼んでいます。食道裂孔ヘルニアは胃食道逆流症を起こしやすい病態と言えます。

 相談者の症状は胸焼けの症状があることから、食道裂孔ヘルニアに伴う胃食道逆流症と考えて矛盾しません。治療は一般的に内服薬で開始します。主に胃酸の分泌を抑える薬などを用います。プロトンポンプ阻害剤やH2ブロッカーといった薬がこれに該当します。一つの薬では効果が得られないこともありますので、いろいろと試されることをお勧めいたします。

 内服薬で効果が得られない場合には手術による治療を行います。その概略は、胸部に入り込んだ胃の一部を腹部に戻し、食道に胃を巻き付けて胃液の逆流を抑えるというものです。最近では腹部に小さな穴を開けて行う、腹腔(ふっこう)鏡を使用した方法が取られることも多いようです。

 ただ、最近の内服薬はよく効くようになっていますので、手術による治療が行われるのはそう多くはありません。

 以上が食道裂孔ヘルニアの治療法です。相談者に関しては、服薬と食事療法で症状が改善していないことや下腹部痛があることなどから、他の原因も考えておく必要があります。食道がん、機能性胃腸症、狭心症などの循環器疾患は症状が似通っている場合も見られ、これらが原因となっていないかどうかを調べてもらいましょう。

 受けているとは思いますが、バリウムによる上部消化管(食道、胃、十二指腸を指します)のX線造影、もしくは内視鏡検査は必須でしょう。また、下腹部痛は「食道裂孔ヘルニア」で見られることが少ないので、こちらの原因も明らかにした方がよいでしょう。主治医に症状をよく伝え、しかるべき検査を計画していきましょう。

徳島新聞2012年4月15日号より転載

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