徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

【質問】 風邪で何度も鼓膜切開

 2歳の女児が、1歳前のころから、風邪をひくたびに中耳炎になり、1~2週間隔で鼓膜の切開を繰り返しています。中耳炎になってもぐずりもせず、高熱が出るわけでもありませんが、赤くなっているようです。軽い風邪のときは自然に治ります。切開し続けるしかないのでしょうか。切開は何度してもいいのでしょうか。やや強い薬を使って風邪を治してもらう方がいいのでしょうか。



【答え】 中耳炎 -適切な治療法の選択を-

武田耳鼻咽喉科 院長 武田直也(徳島市新蔵町1丁目)

 中耳炎のほとんどは、鼻や喉の感染症から引き起こされます。まずは、中耳炎の原因となる風邪などの感染症を繰り返さないよう、普段から注意するのが大切だということを再確認しておきましょう。

 さて、2歳の女の子が鼓膜切開を繰り返していることから、中耳に滲出(しんしゅつ)液がたまる滲出性中耳炎がなかなか治らない状態のようです。炎症が起こったばかりの急性中耳炎は耳に強い痛みを感じますが、滲出性中耳炎では痛みがほとんどなくなります。

 ただし、耳が詰まった耳閉感は続いており、音はこもったように聞こえています。小さな子どもはそのような耳閉感をあまり気にしないためか、この女の子と同様、ぐずることはあまりないようです。また、滲出性中耳炎では微熱が続くことはあっても、高熱が出ることは少ないようです。

 中耳炎の治療としては、最初に記したように、原因となっている鼻や喉の感染症を治すことが大切です。しかし、それでも中耳に滲出液がたまったままのときは、鼓膜に麻酔をして切開し、液を取り除く方法が選択されます。

 鼓膜の切開部分は数日で再生して閉じてしまうため、中耳炎の原因が改善していなければ再度、滲出液がたまることがあります。鼓膜切開を繰り返しているということは、鼻や喉の感染症の制御が完全にできていないのかもしれません。

 鼓膜切開は、鼓膜のわずかな部分を切るだけですから、繰り返して行うことは特に問題ないと考えます。しかし、鼓膜切開を2~3回行っても中耳に滲出液がたまるときには、鼓膜に小さなチューブを入れて永続的な換気を付ける方法も選択肢に挙がってきます。

 抗生物質が多く使われ始めたころから、鼻炎や中耳炎の原因となる細菌には薬が効きにくい耐性菌が増えてきました。これに対処するために、医師は適切な抗生物質を選択して決められた日数だけ処方するようにしています。これらの理由から、病院で処方された薬の内服は指示されたことを守り、決して自己判断で飲むのをやめないことが大切です。

 このようなことから、薬に頼らず菌量を減らすために、滲出性中耳炎に対する治療法として、最近では鼓膜切開の重要性が高まっています。また、鼻と耳をつなぐ耳管から空気を中耳に送り込む方法が有効な場合があります。質問の最後にあるような強い薬を使うことは、細菌の耐性化を助長することにもつながりかねませんので、あまり望ましくないと考えます。

 赤ちゃんは、母親から受け継いだ母体免疫の効果が切れるころから、さまざまな感染症に見舞われ始めます。特に、小さいころから集団保育に入ると、感染頻度はさらに高まります。

 しかし、赤ちゃんはそのような経験を乗り越えながら、自分自身の免疫力を高めていくことも事実です。一般的に小児の免疫系は、2歳半から3歳ころまでに一度大きく成長を遂げると言われます。まずはその年齢まで、かかりつけの医師の意見を仰ぎ、望ましい治療方法を選択していきましょう。

徳島新聞2011年12月4日号より転載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.