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【質問】 首に膨らみ、手術の必要は

 40代の女性です。最近、首に膨らみを感じて病院に行くと、3cmの甲状腺の良性腫瘍だと分かりました。腫瘍が徐々に大きくなる可能性があるものの、すぐに手術をする必要はなく、2カ月後にエコーとCT検査をするように勧められました。腫瘍が大きくなる前に手術をする方がいいとも思うのですが、大きくなってからでもいいのですか。現在、物を飲み込んだときに多少違和感があります。



【答え】 甲状腺良性腫瘍 -がんの疑いでも慌てずに-

徳島市民病院 外科医師 山崎眞一

 超音波検査を用いた頸部(けいぶ)検診の普及によって、甲状腺腫瘍が発見されることが多くなってきました。一方、他人からの指摘や自分で偶然に、甲状腺腫瘍に気付かれる方も案外多いものです。

 甲状腺腫瘍も他の腫瘍と同様に良性と悪性に大きく分けられます。診断は、触診、超音波検査、細胞診が三本柱です。触診と超音波検査だけでも、かなりの確率で良悪性の判断が可能ですが、良性のように見えて悪性であることや、その逆もまれではありません。

 細胞診は、細い針で腫瘍から細胞を採り、顕微鏡で良悪性を判定する検査です。精度は高いものの、やはり100%の診断率ではありません。

 ご質問では、良性腫瘍との診断がなされているとのことですので、今回は、良性腫瘍の取り扱いや治療方針について述べたいと思います。

 日本甲状腺外科学会などが昨年秋に刊行した「甲状腺腫瘍診療ガイドライン」では、良性と思われる甲状腺腫瘍の手術治療の目安として▽腫瘍が大きい▽経過とともに増大する▽圧迫などの症状がある▽飛び出していて目立つ▽がんが否定しきれない-などが挙げられています。大きさについては、3~4cmを超える腫瘍は手術適応としている施設が大部分です。

 それ以下の大きさか、大きくても本人が経過観察を希望された場合は、3~6カ月に1度くらいの頻度で経過を診ることが多いです。急に大きくなることはまれで、1年以上の経過で腫瘍径が50%以上大きくなるのは4~22%。一方、小さくなるのも0~20%との報告もありますが、長期間にわたったデータの集積はありません。

 腫瘍があると分かった途端、「そういえば違和感などの症状があった」と思われることは、よくありますが、心理的な要素も多分に影響しているかと思われます。実際は、かなり大きな腫瘍でもなんらかの症状を来すことはあまりありません。ただ、逆に小さくても首の前方に飛び出て目立つこともあり、ご本人が気にされる場合は手術の適応となります。

 問題になるのが、がんが否定できない場合です。甲状腺悪性腫瘍の90%強を占める乳頭がんは、超音波検査や細胞診で術前診断が可能なことが多いのですが、先に書いたように、診断の精度は100%ではありません。

 また、数%を占める濾胞(ろほう)がんは、超音波検査でも良性腫瘍との鑑別が非常に難しく、細胞はがんの顔つきをしていませんので細胞診でも診断不能です。3~4cm以上の腫瘍が手術適応となるのは、大きいほど濾胞がんの確率が高くなることが一つの理由です。

 手術適応がある良性腫瘍と診断されても、慌てる必要はありません。十分にご家族で相談され、家庭や仕事の都合を考慮して、治療を検討してください。乳頭がんや濾胞がんの疑いを持たれても、通常は性質が非常におとなしいので、治療を急ぐ必要はありません。

 日常の診療では、実際に触り、超音波画像を見て、患者と相談しながら治療方針を考慮しています。今後の方針については、以上のことを参考にしながら、主治医と相談していただければ幸いです。

徳島新聞2011年8月7日号より転載

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