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【質問】 2歳まで様子見でいいのか

 息子が1歳児検診で「両側停留精巣」と診断されました。今は数カ月に1回通院して様子を見ています。先生には、2歳くらいまで様子を見ようと言われたのですが、それでいいのでしょうか。2歳になっても治っていなければ、どのような治療をするのでしょうか。



【答え】 両側停留精巣 -診断確定なら手術必要-

徳島大学病院泌尿器科 高橋正幸

 精巣は胎児期に腹腔(ふっくう)内で発生し、鼠径管(そけいかん)というトンネル状の構造を通って、通常では生まれた時、既に陰嚢(いんのう)内に下降しています。両側停留精巣は、精巣の下降が不完全で陰嚢内に収まっていない状態です。

 精子の形成にかかわる精巣の細胞は、温度に影響されやすく、陰嚢内は体温より1、2度程度低く保たれています。そのため、精巣が陰嚢内ではなく体内にある状態(停留精巣)が続けば、精巣の細胞に障害が起こってきます。

 まず大事なことは、停留精巣か移動精巣(遊走精巣)かを区別することです。移動精巣とは、鼠径部といわれる下腹部から陰嚢までを移動する状態のことで、寒い時などは容易に陰嚢外へ上昇します。逆に入浴中や入浴後など暖かいところでは、陰嚢内に下降していることもしばしばあります。

 なぜ区別することが大事かというと、治療方針が全く異なるからです。停留精巣は、手術によって精巣を陰嚢内に固定することが必要です。しかし、移動精巣は正常に発育すると考えられており、基本的に経過観察が勧められています。ただ、移動精巣もまれに、途中で陰嚢の外に上昇して停留精巣になる場合があるため、普段は家での入浴中などに精巣位置を確認するとともに、年に1回程度、病院で精巣位置を確認してもらうことが勧められます。

 移動精巣ではなく停留精巣と診断された場合、手術が必要になります。手術の時期については、本来であれば、停留精巣固定術を受けた年齢と将来の精液の状態や妊娠にいたる割合とを関連づけて決定されるべきですが、小さいころに手術を受けた患者が、20年以上にわたって同じ病院を受診し続けるとは限らないので、これに関しては十分な報告がありません。

 多くの報告は、精巣固定術を行った年齢と、その時に採取した精巣組織がどの程度障害を受けているかというデータを基にして、適切な手術の時期を述べています。

 報告によりばらつきがありますが、1歳半を越えると、まれに将来精子をつくる精巣細胞が消失する場合もあり、それまでに手術をするべきだという報告があります。また、生後9カ月を過ぎると精巣の細胞に変化が出てくるので、生後9カ月までに手術をするべきだと述べている論文もあります。ただ、早ければ早いほど良いわけではなく、生後3~6カ月までは精巣は自然に陰嚢内に下降する場合があるといわれています。

 精巣固定術を行った年齢と精巣組織に関する報告や、精巣固定術を行った年齢と将来の妊娠にいたる割合を関連させた報告をまとめ、日本小児泌尿器科学会の停留精巣診療ガイドラインには「1歳ごろから2歳までには精巣固定術を行うべきである」と記載されています。実際、生後6カ月から1歳半までに精巣固定術を行っている病院が多いように思われます。

 ご質問のお子さんは、既に1歳ですので、停留精巣の診断が確定しているならば、手術が望ましいと考えます。

徳島新聞2010年3月7日号より転載

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