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【質問】 検査で菌が見つかった

 50代の男性です。健康診断で胃の再検査が必要だと言われ、胃カメラの検査をしたところ、異常はありませんでしたがピロリ菌が見つかりました。医者から「お薬を1週間飲めば菌を退治できますが、どうしますか?」と尋ねられました。放っておいてもいいものなのでしょうか。



【答え】 ピロリ菌の除菌 -胃がん検診 定期的に-

徳島県総合健診センター 本田浩仁

 ピロリ菌の除菌については、保険診療できるケースと保険診療できないケースがあるので、専門家の間でもさまざまな意見があり、統一見解がないというのが正直なところです。

 保険診療できるのは、胃潰瘍または十二指腸潰瘍の患者に対する除菌で、2000年秋から保険適応となっております。

 一方、保険診療できないのは、ピロリ菌感染者でも胃潰瘍または十二指腸潰瘍がない方の場合です。ご質問のケースはこれに当たると思われます。全国的にみると、そのような方には自由診療で除菌を行っている施設もありますが、まだ一般的ではありません。

 ピロリ菌について少し説明します。ピロリ菌は、1983年にオーストラリアのウォレンとマーシャルにより発見され、胃のさまざまな病気の病原菌として認識されるようになりました。慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどの原因菌として研究が進められています。

 日本人の場合は、年齢が高くなるに従って、ピロリ菌の陽性率(感染率)が高くなっています。日本人全体でみると、実に約50%、すなわち2人に1人はピロリ菌の陽性者ということになります。

 研究では、胃潰瘍・十二指腸潰瘍患者の9割以上が陽性であり、除菌に成功すると、その後の潰瘍の再発率は著明に抑制されることが明らかになっています。こうして除菌の保険適応が認められたのです。

 除菌治療は、3剤(胃酸抑制剤1剤と抗生剤2剤)を1週間服用するという3剤併用療法が一般的です。これにより約8割の除菌成功率があるといわれています。ただ最近は、薬剤に対する耐性菌も増えて、約7割の成功率に低下しているといった報告もあります。

 副作用としては、腹痛や下痢などさまざまなものがあります。また、除菌が成功した後でも、胃酸の産生が増加するため、逆流性食道炎などの食道疾患が逆に増加するのではないかともいわれています。つまり、除菌治療といっても一長一短があるので、事前に十分な検討が必要なのです。

 ピロリ菌発見以前には、胃粘膜の萎縮(慢性胃炎)は、年齢的な変化による加齢現象だと思われていました。しかしそうではなく、ピロリ菌が主な原因であることが判明しましたので、大変な発想の転換を迫られることになりました。

 また、萎縮性胃炎から胃がんに進行することが多いことから、胃がんの発生予防のためにも、除菌を勧めるべきだといった声もあります。

 09年1月、日本ヘリコバクター学会は、胃がんの予防のため、胃・十二指腸潰瘍患者以外でもピロリ菌保菌者には除菌を勧めるという指針を発表しました。同学会は、同除菌治療に対する保険適応を拡大するように厚生労働省に対して要望していますが、現時点ではまだ実現していません。

 一方、除菌による胃がんの予防効果についてはさまざまな意見があり、萎縮性胃炎が進行した後では、あまり効果がないのではないかという報告もあります。

 関心の高い胃がん予防については現在のところ、検診を定期的に受けるのがよいと考えられています。特にピロリ菌陽性の方については、定期的な受診をお勧めしたいと思います。

 胃がん検診は、胃透視を年1回行う方法が一般的ですが、ピロリ菌が陽性で萎縮性胃炎が高度な方は、胃カメラを年1回行う方法でもよいと思われます。

 ご質問の場合、保険適応でない現状では、除菌はせず、胃がん検診を継続することでよいのではないでしょうか。

徳島新聞2010年1月31日号より転載

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