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【質問】 不整脈と血栓に関連は

 60代の男性です。狭心症になり、内服を続けていますが、血栓が心配です。不整脈と血栓に関連はありますか。



【回答】 狭心症 -心房細動で脳梗塞の恐れ-

篠原内科 篠原明宏(徳島市南昭和町)

 まず「狭心症」について簡単に説明します。狭心症とは、心筋に血液を送る冠動脈に狭窄(きょうさく)が起こり、酸素や栄養が一時的に不足して胸痛や胸の締め付けなどを自覚する病気です。冠動脈の完全閉塞(へいそく)による「心筋梗塞(こうそく)」と併せて「虚血性心疾患」と呼ばれます。

 狭心症の治療には、生活習慣改善の上に大きく分けて、薬物治療、経皮的冠動脈形成術(PCI)、冠動脈バイパス手術の3つの治療法があります。今回は、薬物治療についての説明をします。

 治療の方向性としては、冠動脈内血栓の形成防止、冠血流の増加、けいれんにより強い狭窄が発生する冠れん縮の軽減や予防、心臓負担の減少、悪玉コレステロール低下による冠動脈プラーク進展の抑制などを目指します。

 最近の研究では、PCI治療に用いられるステントなどの治療器具開発が著しく進み、冠動脈の初期開存成功率や再狭窄率が大きく改善されているものの、死亡率は改善しないという衝撃的なデータが発表され、薬物治療の重要性が再認識されています。

 ご質問にあります血栓についてですが、坑血小板薬の中では、アスピリンが心筋梗塞の再発と心血管死亡を25%程度予防できるとされています。急性冠症候群やPCI後に対しては、アスピリン単独ではなく、チエノピリジン系薬剤との併用が必要とされています。つまり、急性期の病態改善と慢性期の再発予防の両方に、坑血小板薬の有効性が認められています。

 しかし、心筋梗塞を含む急性冠症候群の発症を予防する目的で坑血小板薬を使用するべきか否かについては、糖尿病の合併症などリスクの高いケースを除くとはっきりした結論が出ていません。ご質問の方に、心筋梗塞やPCIの既往があれば、原則的に生涯、坑血小板薬を内服していただきます。

 また、不整脈と血栓に関してですが、不整脈の中で特に血栓との関連性が高い疾患として「心房細動」があります。ほかにも、洞機能(どうきのう)不全症候群や完全房室ブロック、心房粗動などがありますが、頻度からいえば心房細動が最も多く、高齢者に多い疾患です。

 心房細動は、心房が不規則に興奮する結果、心臓が震えるような動きになる不整脈です。心房の収縮が低下しているため、血栓が形成され脳梗塞の原因となります。

 心不全、糖尿病、脳梗塞の既往、虚血性心疾患や弁膜症などの心疾患、高血圧などの基礎疾患がない心房細動は、生命予後に影響がありません。逆に、これらの背景を持つ場合、心臓の中にできた血栓が血管を詰まらせてしまい、脳梗塞を起こす可能性が高くなります。

 最近、これらの背景因子を点数化した「CHADS2スコア」が用いられるようになりました。スコアの増加とともに脳梗塞の発症率が増加します。心源性(しんげんせい)脳梗塞を予防するには、虚血性心疾患に有効であった坑血小板薬は効果が期待できず、ワルファリンによる坑凝固療法のみが有効とされています。その上で、症状を改善させるための坑不整脈薬治療や、カテーテルアブレーションによる根治治療が行われます。

 どのような不整脈があり血栓を心配されているのか詳細が分かりませんが、担当医と治療方針についてご相談ください。慢性・発作性を問わず、心房細動があれば、坑凝固療法の必要性の有無を検討し、症状が改善しない場合やコントロールが困難な場合には、専門医を紹介してもらえばよいと思われます。

徳島新聞2009年12月27日号より転載

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