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【質問】 休職中の夫どう支えたら

 50歳の夫が先日、病院で「うつ病」と診断されました。現在は、仕事を休んでいます。子どもたちも、家にいる父とどう接したらいいか分からず、腫れものに触るような感じでいます。夫をどのようにサポートしたらよいのでしょうか。



【答え】 うつ病 -従来通りの関係 維持を-

やまぐちメンタルクリニック 山口浩資(徳島市寺島本町東)

 うつ病で休職中の方は、次のような内容の訴えが多いものです。

 第1に「自分の家に居場所がない」。第2に「近所の人が自分の休職に気づいてしまうので、昼間から出歩けない」。そして第3に「会社の人や家族、両親、友人の前で、どうふるまっていいのかわからない」。3つの訴えはどれも共通して「われわれはどこまでも社会的存在であり、社会的な関係の中でしか生きられない」ということを教えてくれています。

 毎日出勤していた人がずっと家にいるようになることは、大きな変化であり、家族という集団の中での関係に変化が起きます。それは家族以外の人とも同じです。日曜日に散歩して、近所の人に「いいお天気ですね」とあいさつしていた人が、平日の昼間となると、ちょっとしたあいさつの言葉にも苦労します。仲間の前では明朗快活で、両親の前では親孝行だった人が、うつ病休職中には、今までとは違う関係を形成する必要に迫られるのです。

 この関係のあり方は、自殺という問題にも深くかかわってきます。うつ病の患者の社会的な関係が十分にマネジメントできない場合、治療者として焦りを感じることは少なくありません。

 うつ病休職中の社員に対して、職場側が過剰な干渉をする場合もあれば、「われ関せず」を決め込んで放置してしまう場合もあります。「しっかりしろ」と励まして患者を焦らす両親もいれば、優しくしすぎて本人を追い詰めてしまう家族もいます。

 さまざまな状況が起こったとしても、職場や家族の方に心掛けていただきたいことがひとつだけあります。「ご本人と『本音の話』をしてください」ということです。これは本人を傷つけるから言わない方がいいというのは、不自然な態度につながり、不安を増す方向に作用するものです。

 職場の方であれば「就業規則ではこう決められていて、会社との連絡方法はこうです」と、事務的にはっきりと本人に伝えてください。職場側が本当のことを言ってくれていると感じられれば、本人が疑心暗鬼に陥るのを避けることができます。

 家庭においても「お父さん、午前中は洗濯とか掃除があるけん居間でおられたらじゃまやから、居間以外でおってな。昼ご飯は自分で適当に食べてよ」でいいと思います。配偶者が従来通りの関係を維持してくれた方が楽でしょう。

 子どもの立場でも同様で、「お父さん、時間の余裕があるんだったら、すまんけど塾まで送ってもらえんで?雨が降ったらつらいんよ」でいいわけです。休職になっても、家族との関係を変えないことが本人に安心感を与えるものです。

 職場が必要事項を事務的に伝え、家族が遠慮なく用事を頼んでくれる日常が、うつ病の回復にプラスとなります。すなわち、職場の方でも、家族でも、元気だったときと同じように「本音の話」ができることが重要となるのです。

徳島新聞2009年11月1日号より転載

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