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【質問】 激務から疲労感や不眠症状

 48歳の男性です。勤めている会社でリストラがあり、今まで他の人がしていた仕事が私に回ってきました。毎日忙しく、疲れがたまっていたのと、暑い日が続いていたこともあり、体の調子が悪く、だるさがとれませんでした。近所の内科を受診して検査をしてもらいましたが、特に異常はありません。最近はますますしんどくなって、夜も眠れない日が続いています。症状がよくなる方法や、薬があれば教えてください。



【答え】 うつ病 -正確な診断で早期治療を-

徳島県精神保健福祉センター所長 石元康仁

 もっと詳しく症状をお聞きしないと診断はできませんが、うつ病またはその前段階が疑われると思います。

 うつ病は心の病気と思われている方がいるかもしれませんが、実は体の病気です。体の症状が必ず現れ、本人も自覚しやすいのです。

 睡眠の障害が8割以上の患者に、疲労・倦怠感(けんたいかん)、食欲不振、頭痛・腰痛などの痛みが6割以上に認められます。そのほか、便秘、下痢、動悸(どうき)など、ありとあらゆる体の症状が出ます。原因不明の体の不調の裏には、うつ病が隠れている可能性があります。

 症状は<1>前述した「体の症状」<2>抑うつ、不安、イライラなど「気分の症状」<3>考えがまとまらない、集中できない、判断・決断ができない、絶望感、劣等感、自殺を考えるなど「考えの症状」<4>何をするにも億劫(おっくう)で、もともと好きだったこともしたくなくなる、表情や身ぶりが減る、生気が乏しくなるなど「やる気の症状」-があります。

 症状は、朝悪く、夕方に軽くなる日内変動があります。これら4つの症状が2週間以上続いていると、うつ病が疑われます。

 症状は、ある日突然現れるというわけではありません。本格的な症状が現れる前に▽疲れがとれない▽体がだるい▽眠れない日がある▽気分が落ち着かない▽食欲が落ちた▽楽しく感じない▽仕事がうまくできない-といった心身の不調を感じる段階を経ます。

 相談者は、激務の中で体のだるさや不眠が続き、内科的な検査では異常がないとのことですので、この段階かもしれません。

 うつ病は適切な治療で回復します。ほかの病気と同じで、早期に治療できれば早く回復します。精神科、神経科(精神神経科)、心療内科、メンタルクリニックを受診し、正確な診断を受けられることをお勧めします。

 うつ病の原因は、脳内ホルモン(神経伝達物質)のセロトニン、ノルアドレナリンが病的に減ってしまっていることと考えられています。

 治療の原則は、休養と薬です。うつ病はよく、ダムに例えられます。今年も雨が降らず、早明浦ダムの水が減って取水制限が発動されています。少々減った程度ならよいのですが、ダムの水(セロトニン、ノルアドレナリン)がかなり(病的に)減ったのに、いつものように使っていると干上がってしまいます。取水制限(休養)することは、水(セロトニン、ノルアドレナリン)を使わないということです。ダムの奥で雨を降らせて、水(セロトニン、ノルアドレナリン)を増やすのが薬です。

 人が生まれてから死ぬまでの一生で、10人に1人がうつ病を経験するといわれています。うつ病は、決して特別な人がかかる病気ではなく、誰もがかかりうる、ごくありふれた病気といえます。

 患者数が多い一方で医療機関への受診率は低く、多くの患者さんは診断や治療を受けていない現状があります。心のバリアフリーの広がりが望まれます。

徳島新聞2009年6月28日号より転載

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