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【質問】 肛門に痛みや違和感

 70歳の主婦です。約50年前に痔(じ)の手術をしたのですが、何年か前から便のあとで肛門が少し痛むので、塗り薬を使っています。便秘なので便を軟らかくする薬を病院でもらい、10年ほど前から飲んでいることもあり、いつも軟便か水便です。いつのころからか肛門に違和感があり、病院で診てもらったら、肛門に指がやっと1本入るくらい狭くなっていて、肛門狭窄(きょうさく)といわれました。何が原因なのか、どんな治療をすればよいのか詳しく教えてください。手術しないといけないのでしょうか。



【答え】 肛門狭窄症 -手術の後遺症の可能性も-

新浜医院 森 俊明(徳島市新浜本町3丁目)

 肛門狭窄症には主に裂肛(切れ痔)が原因の場合と、肛門の手術が原因の場合の2つがあります。また、体質的に瘢痕(はんこん)という固い傷跡になりやすい傾向の人にも多いようです。

 症状ですが、肛門が狭いために便が出にくくなり、無理な排便で肛門が切れます。最初は肛門が浅く切れるだけですが、何年も放置すると深い潰瘍(かいよう)となり、硬く瘢痕化します。こうなると肛門がますます狭くなり、裂けやすく悪循環に陥ります。やがて肛門は指も通らないほど狭くなり、排便に支障をきたします。

 このような肛門狭窄症に伴う症状を悪化させないためには便秘をしないことに尽きます。水分や野菜を多く取り、朝食を欠かさずに運動をしましょう。

 それでも駄目なら、対症療法として下剤を定期的に服用します。強力な下剤では逆効果なので、弱めの下剤で「粘土状軟便」を維持しましょう。肛門括約筋を弛緩(しかん)させる作用があるニトログリセリン軟膏(なんこう)が有効なこともあります。

 それでも良くならなければ手術療法になります。硬く収縮した部分のつっぱり部分の除去や、メスで肛門括約筋に小さな切れ目を入れるLSIS法という手術があります。これで肛門が少し緩くなり、症状が軽くなります。

 これらが効かない高度の肛門狭窄には、SSG法という肛門管の形成手術を行います。これは狭窄している部分より外側の肛門の皮膚を利用して肛門を広げる手術で、入院が必要です。

 LSIS法とSSG法、いずれにしても大事なことは「広げ過ぎずに十分な効果を得る」ことで、技術的に難しいのは拡張の加減です。広げ過ぎると術後に肛門が緩くなるし、拡張が不十分だと早期に再発します。

 このほか、手術後の肛門狭窄症に、30年以上前まで痔核(いぼ痔)に対して盛んに行われていた手術法「ホワイトヘッド手術」の後遺症があります。

 それは、現在の標準術式である結紮(けっさつ)切除術に比べ、広い範囲を切除する手術でした。昔は徹底的に治すことが重視されていたためですが、術後に多々問題を生じました。現在では痔核のみを最小に切除する方法になってます。これは「根治性追求の拡大手術から機能を考えた縮小手術へ」という外科全般の流れに共通するものです。相談者が、ホワイトヘッド手術を受けていた可能性もあります。

 なお、肛門痛についての悩みですが、特発性(原因不明の意味)肛門痛という病気があります。痔核や裂肛と関係なく、突然に肛門の奥の方が痛くなり、それも夜に発症することが多いようです。肛門より奥、直腸の下の方が痛むと訴えることが多く、突然キューと締めつけられるような症状です。別名「肛門挙筋症候群」ともいわれ、肛門に関係する筋肉の収縮がうまく調整できなくなり、過剰に収縮するのが原因です。

 この場合、風呂で温めるなどで体の緊張を和らげると、筋肉が緩んで痛みが軽くなります。排便して直腸を空にすることも有効です。直腸の感覚が過敏で便意を感じやすくなっているのが原因なら、軽い安定剤も有効といわれています。相談者の場合、肛門狭窄症による痛みと、この特発性肛門痛が共存している可能性もあります。

徳島新聞2008年3月23日号より転載

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