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【質問】 右わきに硬いおでき

 50代男性です。3週間ほど前から右わき腹におできの一種の癰(よう)ができて気になっています。だんだん大きく硬くなっていて、触ると中にしんがあるような感触です。絞りだしてみようかとも思うのですが、ただの脂肪腫なのかどうか心配です。病院で処置してもらう方がいいのでしょうか。癰は直径二センチぐらいの大きさになっています。



【答え】 炎症性粉瘤 -良性腫瘍に細菌感染切開を-

徳島市民病院 皮膚科診療部長 内田 尚之

 癰ができているが、単なる脂肪腫かもしれないとの質問ですが、まず癰について説明します。

 癰は、数個から十数個の隣接した毛包(毛穴)に黄色ブドウ球菌などの細菌が入って起こる急性の感染症です。大きさは鶏卵大から10センチ以上にもなり、触れると熱く、赤く盛り上がり、表面に白く膿(うみ)を持った毛穴が多数みられます。1週間前後で表面の毛穴が破れて膿が出てきて、じくじくした状態になります。痛みは非常に強く、時に発熱することもあります。

 ところで、癰によく似た「せつ」という皮膚の病気があります。せつは1個の毛包に細菌が入って起こる感染症です。1個の毛包のみに感染が起こるため、大きさは癰に比べて小さく、盛り上がった部分は1~2センチ程度、痛みも軽度です。この病気も膿がたまってくると、1~2週間で破れて膿が出ます。ただし、これが前額部や鼻にできると、面疔(めんちょう)といわれる、かつて恐れられた病気となります。

 次に脂肪腫について説明します。脂肪腫は皮膚の脂肪がある場所ならどこにでもできる良性の腫瘍(しゅよう)です。ゆっくり何年もかけて大きくなり、皮膚の下に柔らかい塊となります。通常痛みはありませんが、大きさは1~2センチから数センチ、あるいはそれ以上になります。つまり脂肪腫は、質問のように3週間程度で大きく硬くなり、中にしんが触れるような症状にはなりません。まず、脂肪腫ではないと思います。

 さて、質問の人の「2センチ程度の大きさで、硬くしんがある」症状から推測すると、癰でもないと思われます。大きさからすれば、せつが疑われます。しかし、せつにしても破れて膿が出ていないことや、中に硬くしんがある点が症状と合いません。

 ところで、このような症状によく似た病気として炎症性粉瘤(ふんりゅう)があります。これは粉瘤という良性の腫瘍に、細菌感染を起こした状態です。

 粉瘤は皮膚の中に袋状の塊(嚢腫(のうしゅ))ができて、少しずつ大きくなります。腫瘍の中央に1ミリ程度の出口があれば、悪臭のする白い粥(かゆ)状の物質が出てきます。見た目は脂肪腫によく似ていますが、脂肪腫よりは硬くなります。

 そしてこの腫瘍に細菌が入れば急に大きくなり、赤く硬くなり、痛みが出てきます。こうなれば、せつに似た状態になります。以前から右わき腹に硬いしこりがあったのならば、炎症性粉瘤が最も疑われます。

 いずれの病気も細菌の入った膿を外に出すことが治療の第一歩です。腫れた皮膚に局所麻酔を行い、メスで皮膚を1センチ程度切開して膿を押し出します。内容物の種類によって、炎症性粉瘤か、せつか判別できます。

 これらの細菌によって起こる病気以外にも急に大きくなる皮膚の腫瘍はあります。その場合は病理組織学的検査が必要です。一度、皮膚科を受診し相談してみてはいかがでしょうか。

徳島新聞2008年1月6日号より転載

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