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【質問】 がん検診で「異常」の判定

 38歳の娘が昨年11月、子宮がん検診を受けました。結果はクラス3aと判定され、精密検査で2とされました。現在、3カ月ごとの検診で経過観察のようですが、とても心配です。私の知人には3bで手遅れになって、早く亡くなった人がいるので「もう子どもは生まないんだから、切除したら」と言っても、娘は「先生が、そう簡単には子宮は取らない方がいい、というので任せておく」と言います。がんの芽があることは確かなのだから、これでいいのか不安です。子どもは小さく、家のローンもあるので、万が一のことを考えたら眠れない思いです。



【答え】 子宮頸がん -自身に合う治療法選択-

徳島大学医学部 産婦人科助教授 古本 博孝

 子宮頸(けい)がんの検査で異常を指摘された娘さんのことが心配でたまらない気持ちはよく分かります。しかし、「子宮を取る」手術は危険を伴うものなので、その危険を冒してもしなければならない理由が必要です。また、現在は子宮を摘出する以外にも多くの治療法があります。娘さんの場合には現在の病気の危険性と、いろいろな治療法のメリットとデメリットを比較して、最適なものを選択すればいいでしょう。

子宮頸がんの程度と検診の判定
がんの
程度
正常

軽度
異形成
中等度
異形成
高度
異形成
上皮内
がん
浸潤
がん
検診の
判定
1~2
3a
3b
 判定のクラス3aを説明するためには、子宮頸がんのできる過程を理解する必要があります。頸がんはある日突然にできるわけではなくて、5~10年かかって徐々にできます〈表参照〉

 最初は異形成という、がんの手前のような状態になります。これは程度によって軽度、中等度、高度の3段階に分けられます。軽度異形成はがんの方へ一歩踏み出した状態、高度異形成はがんの一歩手前の状態と考えればいいでしょう。

 異形成は可逆的な病変で、その50%は自然に治りますが、50%は進行して上皮内がんになります。これは一応がんですが、できたばかりでおとなしく、広がることができません。妊娠中に発見された場合は予定日まで待つことが可能です。しかし上皮内がんも5年くらいたつと浸潤する能力を獲得し、広がり始めます。こうなると命にかかわりますし、一刻も早く治療する必要があります。

 子宮がん検診の判定は1~5まであり、1~2が正常、3aは軽度~中等度異形成、3bは高度異形成、4は上皮内がん、5は浸潤がんが疑われるという意味です。3aは細胞の形から軽度~中等度異形成が疑われるというものですが、これはあくまで目安であり、実際にはその中には正常な人もいますし、一方で上皮内がんの人もいます。

 従って娘さんが実際はどの段階なのかをはっきりさせる必要があります。精密検査で2だったことから、正常であることが示唆されます。もし正常であれば子宮を取る必要はなく、検診をしっかりすればいいでしょう。軽度~中等度異形成の場合にはしばらく様子を見て、治癒しないようであれば治療すればいいでしょう。高度異形成の場合はしばらく様子を見てもいいですが、すぐ治療してもいいでしょう。上皮内がんは治療が必要です。

 3aで浸潤がんの人はめったにいませんが、3bで浸潤がんは時々あります。3bで手遅れになったというのは、おそらく浸潤がんだったのでしょう。このようにクラス判定はあくまで目安であって、その中には軽い人も重い人もいますので、実際にはどの状態にあるのかはっきりさせることが大事です。

 最後に治療法を紹介します。それぞれ一長一短ありますので、自身に合った治療法を選択する必要があります。

 <1>経過観察=異形成は自然に治ることがあるので様子を見るのも一つの選択肢です。中等度・高度異形成の場合は、最初から治療しても構いません。

 <2>レーザー蒸散=レーザーの熱で病巣を蒸発させる方法です。局所麻酔で日帰りか、1泊2日で治療が可能です。病巣が蒸発するので診断の確認ができないため、慎重に用いる必要があります。高度異形成まで治療可能です。

 <3>円錐(えんすい)切除=病巣を円錐状に切除する方法です。脊椎(せきずい)麻酔で1週間弱の入院が必要です。摘出したものを検査して診断の確認ができるので安全な方法です。上皮内がんまで治療可能です。

 <4>光線力学的治療(PDT)=注射と弱いレーザーを組み合わせて治療する方法です。痛みはありませんが、薬の副作用で光に過敏になるので3週間ほど薄暗い部屋に入院する必要があります。子宮がそのままの形で温存できるため、将来出産する女性の上皮内がんが対象です。

 <5>単純子宮全摘出術=子宮を摘出する方法です。全身麻酔で1週間程の入院が必要です。子宮がなくなるので、子宮がんになる可能性はなくなります。

徳島新聞2006年3月19日号より転載

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