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【質問】 五十肩の治療法を教えて

 69歳の男性です。五十肩について相談します。今年初めから左肩(肩甲骨全体だが、特に下の方)が痛みます。腕が上がらず、痛みで夜目覚めることもあります。これまでに整形外科に5ヶ月、整骨院に1ヶ月半通院しました。現在は別の整形外科に入院中で、電気治療とマッサージ、インドメタシン入りのチューブ剤を塗っていますが、全く良くなりません。外から見ると、肩甲骨の上の方がちょっと出ている(腫れている)ようにも思います。五十肩の効果的な治療法などについて教えてください。



【答え】 肩関節周囲炎 -入浴後のストレッチが効果的-

上板整形外科クリニック 井上 昭(板野郡上板町西分)

 中高年で、肩の疼痛(とうつう)と運動障害を生じる症状は一般的に五十肩として総称されます。五十肩は肩峰下滑液包炎、石灰化腱炎(けんえん)、腱板炎、上腕二頭筋長頭腱炎などの病態を含んだ広範囲な疾患群です。


 肩関節は人の体の中で最も運動範囲が大きな関節であり、関節周囲の筋肉に対する負担が大きいため、加齢に伴う筋肉の劣化(変性)の影響を受けやすくなっています。特に上腕骨頭を肩甲骨に引き寄せる作用のある棘上(きょくじょう)筋は、肩峰および上腕骨に挟まれており、その上腕骨への付着部の血行は乏しいため、加齢変化を生じやすい構造で弱点となっています=図参照=。

 肩甲骨全体が痛いことは、肩関節を動かせる範囲が狭まっており(関節包の委縮と広範囲の癒着による肩関節拘縮)、このために運動時に痛みを生じていると思われます。肩甲骨の上の方が出ていることは、既に肩関節周囲の筋肉(棘上筋および三角筋)に委縮を生じているためと考えられます。つまり五十肩の中でも、既に慢性期に移行している状態と考えられます。

 五十肩の治療法は、初期と慢性期では大きく異なります。初期には痛みを取ることが第一であり、まず患者さんには局所の安静を指示し(アームサスペンダーを使用)、薬物療法(抗炎症剤、鎮痛剤、湿布)とともに関節内注射(ステロイドと局所麻酔剤)や神経ブロックを行います。ある程度安静時と運動時の痛みが治まってから、運動療法(関節可動域訓練)を行います。

 関節拘縮が残った慢性期では、温熱療法を併用したストレッチで動かせる範囲を徐々に拡大させていきます。五十肩は加齢に伴う筋肉や腱の劣化(血行障害も影響)が関係していますので、サポーターや使い捨てカイロを使用して、肩を冷やさないように注意してください。また、肩のストレッチは入浴後に良い方の手で悪い方の手首を持って、肩関節をあらゆる方向(特に外側)に動かしてみてください。

 この際に重要なことは、ストレッチ時の痛みを辛抱し過ぎないことです。痛みが強いと肩関節周囲の筋肉が緊張し、かえって痛みの増強と関節の動きの悪化を招きます。ある程度抵抗感のあるところまでストレッチし、動かせる範囲を徐々に拡大していくことがコツです。

 相談者の年齢が69歳とやや高齢で、いまだに運動障害と疼痛が強いので、肩腱板断裂の合併も疑われます。

 腱板断裂は、若年者では、打撲などの外傷で急性に発症することが大部分ですが、中高年者では、腱板に加齢に伴う変性があるので、明らかな外傷が無くても、周囲の骨に腱板が挟まれて損傷を受けて断裂することがあります。

 以前は関節造影検査で診断されていましたが、現在ではMRIにて非侵襲性(患者さんに及ぼす影響がない)に簡単に診断できます。腱板断裂と診断された場合には、手術療法(腱板修復術、靱帯(じんたい)や骨の部分切除術)も選択肢となります。最近では、内視鏡でこれらの手術が行われます。

 ただ、腱板断裂があっても、根気よくストレッチなどの適切な保存的治療を続ければ、日常生活に支障のないレベルまで運動範囲と痛みは改善される例が大部分なので、頑張ってみてください。

 なお、頚髄(けいずい)や末梢(まっしょう)神経に問題がある場合にも、相談者と同様の症状となることがあるので、整形外科専門医に相談してみてください。

徳島新聞2005年11月20日号より転載

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