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【質問】 自己診断で「対人恐怖症」

 30代前半の女性です。1年半ほど前から体がだるく、やる気が起きません。先日、インターネットサイトの「うつ病自己診断」で、「対人恐怖症」と出ました。実際、「迷惑をかけているんじゃないか」「失礼じゃないか」と気になります。集中力がなく、話しかけられてもろくな返事もできずに落ち込みます。そしてイライラしやすかったり、きつい言葉遣いになったりする自分が嫌になって落ち込みます。死にたいわけではないですが、生きるのがつらいです。また、動悸(どうき)がしやすく、頭痛持ちで、腱鞘(けんしょう)炎にもよくなります。精神的な病気以外に何か考えられますか。



【答え】 うつ病 -タイプさまざま 根気よく治療-

田岡東病院 橋本 台(徳島市城東町2丁目)

 最近はインターネットの普及によって、さまざまなサイトで精神疾患の自己診断ができるようになっています。相談の女性は自分で「うつ病ではないか」と思ってホームページを開き、対人恐怖症と診断されたと推察されます。

 当院でも、同じように「うつ病と診断された」と心配する患者さんが増えています。実際に診断してみるとうつ病以外にも、不安障害、適応障害、心気障害など診断はさまざまです。病気でないこともあります。

 まず、対人恐怖症について説明します。対人恐怖症は、他人と同席する場面で強い不安や緊張が生じ、他人に軽蔑(けいべつ)されるのではないか、不安な印象を与えるのではないか、嫌われるのではないかなどと思い、対人場面を避けようとする病態です。

 青年期に多く、赤面恐怖、視線恐怖、体臭恐怖などさまざまな発現様式があります。以前は日本人の国民性や社会文化的な特徴から日本独自の疾患と考えられていましたが、諸外国にも同様の病態があることが分かっています。1980年代から90年代にかけて米国の精神科診断学や国際疾病分類の影響を受け、現在では「社会恐怖」「社会不安障害」と病名が変化しています。

 対人恐怖は人前で生じるもので、ときには引きこもりに発展することもありますが、自宅にいるときに症状がないのは精神障害やうつ病と異なります。相談内容によると発症が遅く、身体症状で発症し、集中力の低下や焦燥感、抑うつ感情が強いことや、自宅でも同様の症状が続いていることなどから、うつ病が疑われます。

 うつ病は通常、抑うつ気分、興味と喜びの喪失、活力の減退による易疲労感(体がだるくなる状態)の増大、活動性の減少が認められます。そのほか一般的に次のような症状が挙げられます。

 <1>集中力と注意力の低下<2>自己評価と自身の低下<3>罪責感と無価値感<4>将来に対する希望のない悲観的な見方<5>自傷あるいは自殺の観念や行為<6>睡眠障害(不眠または睡眠過多)<7>食欲不振

 以上の症状が普通は少なくとも2週間は続きます。

 うつ病は、よく「心の風邪」と表現され、一般的な病気ととらえられていますが、治療をおろそかにすると“肺炎”にも発展しかねません。

 一般的には「憂うつ」といえば、うつ病と見てしまいがちですが、さまざまなタイプがあることをぜひ知ってもらいたいと思います。

 <1>大うつ病性障害<2>双極性障害(躁(そう)うつ病)<3>気分変調症(慢性抑うつ気分)<4>短期反復性うつ病、小うつ病<5>非定型うつ病(身体症状を伴う動揺性)<6>季節性うつ病<7>器質性うつ病(脳血管性、身体疾患による)<8>精神障害性うつ病(幻覚や妄想が出現)

 治療については薬物療法、精神療法(カウンセリング)、認知療法などがあり、薬剤もタイプによって抗うつ薬、抗不安薬、気分安定薬などを使い分けています。治りやすいもの、治りにくいものがあり、根気よく治療することが必要です。

 相談の女性は1年半という期間、いろいろと悩まれて、つらい気持ちを持ったと思います。今まで専門医を受診していなければ、ぜひ一度、心療内科、精神科などを受診してください。

 最後に精神科以外の病気を心配されていますが、身体症状が固定しないため、特定の身体疾患は考えにくいと思われます。ただし検査を受けていなければ、血液検査や心電図、頭部CT検査などを受けた方がよいと思います。

徳島新聞2005年9月11日号より転載

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