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【質問】 夫のもの忘れがひどい

 61歳の夫のことで相談します。もの忘れがひどく、定年を待たずに58歳で退職しました。その後、脳神経科を受診したところ、異常は認められませんでした。日常会話には事欠きませんが、同じことを繰り返し言います。自分の行動を30分で忘れますが、本人の自覚はありません。現在、事情を分かってもらった上でシルバー人材センターに登録し、雑用の仕事をしています。でも、自分で依頼を受けながら、依頼場所を忘れたり、「仕事を受けていない」と言ったりすることが再三あります。私も勤めながら、二人三脚の状態です。日増しに悪化している状態を見ると、とても心配です。病気とすれば、何科を受診したらいいのでしょうか。また家庭では、どのように接していけばいいのでしょうか。



【答え】 早発性アルツハイマー病 -失敗責めず社会資源を活用-

宮内クリニック 宮内 吉男(徳島市名東町)

 夫は61歳ということですが、もの忘れが58歳以前より徐々に始まり、30分前の自分の行動すら記憶できないほどに進行しているようです。また、それとともに判断力などにも問題があったためか、早期に退職し、現在ではあなたの支えを常に必要としている様子がうかがえます。 

 つまり新しく経験したことを記憶にとどめることができなくなる記憶障害を中核に、今日が何月何日で自分がどこにいるの分からなくなる見当識障害、さらに計画を立てる、組織化する、判断する能力が低下する実行機能障害などのために普通の社会生活を送るのが困難になった状態と考えられます。 

 このような状態を以前は痴(ち)呆(ほう)症としていましたが、侮辱的な印象を与えて痴呆の実態を正確に表さないということで、現在では認知症と呼び換えられています。 

 認知症の多くはアルツハイマー病と脳血管障害によるものです。あなたの夫は症状が緩やかに発症、進行していること、運動麻痺(まひ)などの局所神経症候がみられないこと、発症年齢が遅くとも50歳後半で65歳未満であることにより、早発性アルツハイマー病と考えられます。 

 アルツハイマー病は神経の変性疾患で、比較的短い間に著しい脳の神経細胞の減少が起こり、脳全体が委縮していく病気です。その病変が記憶の場である側頭葉の海馬から始まることによって、病的なもの忘れから初発します。さらに頭頂葉、前頭葉へと広がるために次第に脳の高次機能障害が起こり、やがて顕著な自発性の低下にいたるのです。 

 また、経過中に抑うつ、もの盗られ妄想、不眠、不穏・興奮、徘徊(はいかい)などの症状が出現することもあります。これらの症状は記憶障害や見当識障害などの中核症状に対して周辺症状として包括されています。特に早発性アルツハイマー病は経過中に周辺症状も現れやすく、まだまだ活動性も高くて治療効果も期待できるので、医療機関の早期受診を勧めます。 

 中核症状に対する薬物療法としては、病気の進行を抑制するといわれるドネペジルが用いられ、一定の効果が認められます。また同種の薬剤のガランタミンも数年後には認可される見通しで、その効果が期待されます。 

 診療科は脳神経外科をはじめ神経内科、心療内科、精神科が専門的ですが、ほかにも認知症に積極的に取り組んでいる医師がいるので受診してください。 

 家庭での対応は、本人の性格や生活環境によって一人一人異なるものと思います。一つ重要なことを挙げるとすれば、「決して失敗を責めてはいけない」ということです。1日中失敗に付き合っていると、つい叱責(しっせき)したくもなります。しかし、これが本人のストレスとなり、妄想や不眠などの周辺症状を引き起こすことがあるのです。 

 最終的には、家族にどれだけの精神的余裕があるかということになります。つまり、介護者の身体と精神の健康こそが重要と思います。そのためには一人で抱え込まずに信頼できる医師やケアマネージャーに相談するとともに、社会資源の活用を考えてください。呆(ぼ)け老人をかかえる家族の会(日本アルツハイマー病協会)や在宅介護支援センターなども気軽に相談を受けてくれます 。

徳島新聞2005年6月19日号より転載

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