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【質問】 血液検査でがん分かる?

 34歳の独身女性です。テレビを見て、乳がん・子宮がんのことが気にかかっています。若くても、がんが発生しやすい体質があると聞いたことがあり、親族でも何人かががんで亡くなっているので心配です。乳がん・子宮がんともに病院で直接検査を受けなければ分からないものでしょうか。海外では、血液検査だけで分かると聞いたことがあるのですが、本当でしょうか。徳島県内でも、そんな検査を受けられるのでしょうか。



【答え】 乳がん・子宮がん -かかる心配より早期発見-

徳島大学病院 食道・乳腺甲状腺外科 駒木 幹正

 質問のポイントは乳がん・子宮がんについてのかかりやすさと、診断の方法と思います。まず、かかりやすさについてお答えします。

 現代ではがんはとても身近な病気です。1999年の厚生省(当時)の統計によると、75歳になるまでに男性では3人に1人、女性では4人に1人ががんにかかっています。生涯のうちには3分の1の確率でがんにかかるといえ、がんの患者さんが親族内にいないのが少ないくらいです。

 がんになりやすい体質というのは確かに存在します。それは体を構成している細胞内の遺伝子に何らかの異常がもともとあって先天的に発症しやすい場合と、生活習慣や生活歴のために後天的に発症しやすい場合です。遺伝子に大きな異常がある場合は、がん以外のさまざまな症状も一緒に現れ、「症候性がん」として医学的に把握されています。代表的なものにリー・フラウメニ症候群、カウデン症候群、ポイツ・イエーガー症候群などがあります。

 また、遺伝子の大きな異常ではなく、特定のがんを抑える遺伝子にのみ異常がみられる場合に、特定のがんが発症しやすくなることが分かっています。乳がんでは「BRCA1」および「BRCA2」と呼ばれる遺伝子が見つかっています。しかし、遺伝子にもともと異常があってがんを発症する場合はとても少なく、例えば乳がんの患者さんではわずかに3%です。すなわち、乳がんの患者さんの97%は遺伝とは全く関係なく発症しています。

 後天的に乳がんを発症しやすいのは、月経が早く始まったり、高齢まで月経があったりした人です。また妊娠歴がないか、あっても少ない人などです。しかし、発症しやすいといってもかかりやすさは2倍にも届きません。親類に乳がんの患者さんが多い人はかかりやすいと思われがちですが、そのほとんどは生活習慣などが似通っているためです。ただ、本人が乳がんにかかったことがあったり、乳がんの患者さんが血族に3人以上いたりする場合は、そうでないのに比べてほぼ10倍以上かかりやすいと考えてください。

 一方、子宮がんは体部がんと頸(けい)がんがありますが、かかりやすい生活歴は全く異なっています。体部がんは未産の方に多い傾向がみられ、頸がんはその逆といわれています。

 以上述べましたことからも、乳がん・子宮がんともに、かかりやすい体質を気にするより、女性であればこれらの病気にかかる危険性は等しくあると考えることが大切です。乳がんも子宮がんも、ごく早期であれば100%近い治癒が望めます。最も大切なのは検診をきちんと受けて、万一の場合は専門の医師とよく相談して正しい医療を受けることです。

 次に乳がん・子宮がんの診断ですが、血液検査のみで正しい診断ができることは国内、海外でもあり得ません。視触診や画像による診断、細胞学的な診断を組み合わせて、より正確な診断をします。

 症候性がん、特定のがん発症にかかわる遺伝子の異常は、細胞の染色体検査で明らかにすることができます。染色体は血液中の白血球を分析するので、血液検査で分かるといえます。しかし、これも遺伝子異常が分かるだけで、がんにかかっているか否かは分かりません。

 染色体検査は最も尊重されるべき個人情報で、親族全員にかかわる問題でもあるので、安易に検査するべきものではありません。徳島大学の研究部門では染色体検査も可能ですが、どうしても必要な場合はまず、徳島大学病院内の遺伝相談室<電088(633)9218>に相談してください。

徳島新聞2005年1月23日号より転載

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