徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

【質問】 腰の手術は2回できないの

 70歳の男性です。15年前に脚の付け根が痛くなり、腰の骨(4-5番)の固定手術をして、経過も良好でした。しかし、最近、脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)で歩行困難となり、老人用手押し車を使用しないと歩けなくなってしまいました。整形外科医からは「腰の手術は2回目はできない」と聞きましたが、絶対に無理なのでしょうか。



【答え】 腰部脊柱管狭窄症 -すっきりとは解消されない-

かじかわ整形外科 院長 梶川 智正(阿南市日開野町筒路)

 症状の原因疾患となっている「腰部脊柱管狭窄症」とは、どのような病気なのでしょうか。読んで字のごとく「年齢とともに腰部の背骨が変形し、脊柱管と呼ばれる神経の通り道が狭くなることで、腰や脚がしびれたり、痛んだりする」病気です〈図1〉。


 症状としては、歩き始めはよいが、しばらくすると、太ももやふくらはぎにしびれや痛み、つっぱり感が表れ、徐々に強くなり、歩きづらくなります。前かがみで少し休めば、それらの症状はなくなり、また歩けるようになります。

 間欠跛行(はこう)と呼ばれる症状です。なぜ、前かがみで少し休むと、症状が楽になるのかというと、座ったり前かがみになると、脊柱管を通る神経に対する圧迫が少なくなり、神経の中を走っている血流がよくなるためです。逆に、背筋を伸ばして立つと、神経が圧迫されるため、痛みやしびれを感じるようになります。

 このケースでも「老人用手押し車を使用しないと歩けなくなってしまった」という状態が、これに当てはまると考えられます。

 では、どの部位で神経の通り道が狭くなっているのか、原因は何なのかということを説明します。

 相談者は、十五年前に腰の手術を行っていることから、同じ部位(腰の骨の4-5番)ならば、骨再生や周囲の組織との癒着が原因の一つと考えられます。ひとつ上の部位(3-4番)ならば、4-5番の固定術の影響も原因の一つと考えられますが、固定術後の隣接椎間(ついかん)への影響に対する意見はさまざまであり、一定ではありません。

 最後に、治療についてですが、腰部脊柱管狭窄症は、神経のどこが圧迫されているかによって<1>神経根型<2>馬尾型<3>混合型-の三つに分類され、それぞれ治療方針は異なります〈図2〉。

 背骨から出る神経の根元が圧迫される神経根型は、脚への痛みやしびれが主で、安静、薬物療法、神経ブロック、理学療法(リハビリ)といった保存療法でほとんど改善します。

 神経の束である馬尾が圧迫される馬尾型は、両脚の広範囲なしびれや脱力感、残尿や頻尿、便秘といった排尿・排便障害、女性では会陰(えいん)部のほてりや異常感覚、男性では異常な勃起(ぼっき)といった、一見背骨と関係がなさそうな症状がみられます。両方の症状が出現する混合型とともに、手術療法が第一となります。

 手術は、馬尾障害がある場合や、保存療法でも改善されない場合に施し、神経の圧迫を取り除く「除圧術」が基本となります。ただ、手術をすれば、どのような症状でもすっきりと解消されるというわけではありません。

 間欠跛行で、続けて歩ける距離が百メートルを切る状態が一年以上続くと、手術をしても効果が得られない場合が多くなります。手術にはタイミングが重要です。近年は、高齢者の腰の手術の報告も増えており、七十歳という年齢は、決して手術が受けられない年齢ではないと思われます。脊椎・脊髄を専門とする医師に相談されることをお勧めします。

徳島新聞2004年6月20日号より転載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.