徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

【質問】 拒食と過食の繰り返し

 20代前半の女性です。3年前から拒食と過食を繰り返して悩んでいます。身長は151センチなのですが、1年間で、体重が60キロから30キロまで落ちたこともありました。それからも過食をしては体重が増え、増えたと思えば食べることができなくなります。2カ月前から再び過食気味になり、今でも体重が増えてきています。このまま過食を続けていると、糖尿病など体に影響がでないか心配です。約1年前から生理が止まり、産婦人科で治療して、一度は回復したのですが、昨春から再び止まってしまいました。友人から心療内科を勧められましたが、行く勇気がありません。回復には時間がかかるのでしょうか。どんな治療をするのでしょうか。



【答え】 摂食障害 -「治そう」という気持ち持続を-

けんなんメンタルクリニック 後藤 宏樹(阿南市日開野町筒路)

 厚生労働省の2002年栄養調査において、ダイエットをしている人は、女性全体の54%にも上り、特に10代の女性では、実際にはやせているにもかかわらず、体重を減らそうとしている人が、41%もいるという報道がありました。こういった社会現象に伴い、摂食障害という病気は注目され、患者数も増加しています。

 摂食障害は、大きくは、不食型(神経性食欲不振症)と、過食型(神経性過食症)の二つに分けて考えられます。しかし、病気の経過中、不食の時期から過食の時期へ転換することもあります。

 神経性食欲不振症は、主に若い女性(30歳以下)にみられますが、まれに男性や30歳以降にも発症します。中核症状は、食欲不振というより肥満嫌悪や、やせ願望のための自発的な節食または拒食です。体重は、標準体重の20%以下となり、body mass index(BMI)は17.5以下に下がります。女性では、3カ月以上無月経となります。

 他方、神経性過食症では、一定時間以内に明らかに大量の食物を摂取し、食べることを途中で止めることができません。また、体重増加を防ぐために、自己誘発性嘔吐(おうと)や下剤、利尿剤の乱用、過食後の絶食や過剰な運動を行ったりします。

 摂食障害の病因ですが、今のところは社会的要因、心理的要因、生物学的要因が、複雑に関連しあって発症すると考えられています。

 <1>社会的要因=美容や健康上の理由から、やせ願望が社会に浸透したこと。飽食の時代であること。また、女性の社会参加に伴い、そのストレスが増大していること。

 <2>心理的要因=完全主義、自己評価が低い、人に認められたい願望が強いなどの性格傾向。自己や性への同一性が不確立。体形や体重についての認知のゆがみがあること。

 <3>生物学的要因=やせや栄養障害により、摂食行動の中枢調整機構が異常をきたし、それがまた摂食行動異常に反映するという悪循環が生じること。

 次に、摂食障害に伴う症状ですが、神経性食欲不振症では、やせや低栄養のために内分泌系の異常、貧血、低血糖、低カリウム血症による動悸(どうき)、不整脈、突然死、骨粗しょう症による骨折などが起こります。また、神経性過食症では、むし歯、逆流性食道炎、胃拡張、消化管出血、低カリウム血症、低血糖、耐糖能異常、低血圧症など、症状は多岐にわたります。また、精神的にも抑うつ状態や不安障害などの合併が高率に認められています。

 さて、ご質問の文面からですと、摂食障害のなかでも、神経性食欲不振症(過食型)が疑われます。身長151センチ、体重30キロとすると、標準体重比がマイナス40%、BMI=13.2となり、極端なやせの状態であるといえます。

 摂食障害に対し特効的な治療法はないのですが、決して治らない病気ではありません。精神療法(カウンセリング)、行動療法、認知行動療法、身体療法(薬物療法)などを適宜選択し、組み合わせて治療してゆくのが一般的です。

 でも、一番大切なことは、摂食障害になってしまった人が、「治そう」という気持ちを持ち、その決断を持続させることです。摂食障害という病気そのものが、身に付いた習慣となっているため、なかなか治そうという気持ちになれません。治療を受けるために医療機関を訪れることは、勇気のいることだと思います。そのことを、心療内科の医療スタッフは知っていますから「よく来院されましたね」と敬意を持って接してくれるでしょう。近くの心療内科に、早めに相談されることをお勧めします。

徳島新聞2004年1月11日号より転載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.