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【質問】 左肩が上がらない

 大工をしている49歳の夫は、2年ほど前から、だんだんと左肩が上がらなくなりました。そのままにしていましたが、今年の春先から左肩の痛みと左腕全体のしびれ感が出てきたので、総合病院で受診しました。血液検査は異常なしで、MRI検査では、五番目の頚椎(けいつい)が神経を圧迫しているといわれました。15年ほど前に交通事故に遭い、頚椎を痛めたことが影響しているのでしょうか。最近では、左腕が右腕の半分くらいに細くなっています。専門病院で原因を発見してもらい、適切な治療で完治することはできますか。



【答え】 解離性運動麻痺 -専門医と相談、診断の確立を-

小松島病院 整形外科 竹内 錬一(小松島市田浦町近里)

 肩が上がらなくなる整形外科的な病気としては、肩関節自身に問題のある肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)、回旋腱(けん)板断裂などがあります。頚椎による病気としては、解離性運動麻痺(まひ)または頚椎症性筋萎縮(いしゅく)症といわれるものがあります。これは肩の筋肉が麻痺し、やせることが原因で起こります。そのほか、脊髄(せきずい)自身に問題があったり、末梢(まっしょう)神経の異常で筋肉が麻痺して萎縮を起こすこともあります。また筋肉自体に原因があることもあります。

 肩関節に問題のある病気は普通、肩や上腕の痛みで発症します。特に夜間の痛みが特徴的です。一方、脊髄自身や筋肉自身の病気で、肩周辺の筋肉の萎縮、筋力の低下が起こることもあります。これらの病気は極めて長い経過をたどるのが特徴です。その病気の初期には、症状が他の病気と似ているので、鑑別をすることは極めて大切です。

 質問者の話から推察すると、症状が痛みやしびれ感を伴うこと、頚椎MRI検査で第5頚椎での脊髄圧迫が原因ではないかと診断されたことなどから、解離性運動麻痺(頚椎症性筋萎縮症)の可能性が考えられます。

 この病気は、頚椎椎間板ヘルニアや頚椎の変形による骨棘(こっきょく)が、上肢の運動に力を及ぼす脊髄前方の前角または前根と呼ばれる部位を圧迫して、筋肉の麻痺が起こると考えられています。

 第4、5頚椎での障害がもっとも多く、肩を上げるための三角筋と、ひじを曲げる上腕2頭筋が、麻痺して筋力が落ちます。しかし、比較的急激に発症することが多く、保存的治療により、半数近くの人が、完全ではありませんがほぼ回復します。

 発症後3~4カ月しても回復することがなければ、脊髄の圧迫を除くために手術的治療を検討しなければなりません。そのためには、脊髄造影、CT検査、筋電図検査などの精密検査を進めなければなりません。その結果、診断が確定すれば、頚椎の手術をします。

 手術は、頚椎の前方からする方法と、後方からの方法がありますが、いずれも脊髄の圧迫を除くのが目的です。しかし、圧迫が強く、長期にわたると、手術をしても麻痺が回復しないこともあり得ます。

 手術する前には、十分な説明と同意がなされなければなりません。

 もう一度、脊椎および脊髄の病気を専門とする医師と相談してください。その結果、肩関節の精密検査が必要であれば、肩の病気に詳しい整形外科医に相談することになります。神経内科的疾患が疑われるなら神経内科医の診断が必要です。いずれにしても、さらに診断を確立した上で、治療について検討する必要があると思います。

徳島新聞2003年7月27日号より転載

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