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【質問】 乳首に突き抜けるような痛み

 30代前半の女性です。半月ほど前から左の乳首に突き抜けるような痛みを感じるようになりました。ある夜、左側を下に寝ていたところ、激痛で目が覚めました。翌日、受診したら「硬化乳腺(せん)」と診断され、治療は行わず、今後数カ月に一度ずつ経過を観察していくことになりました。痛みの予防や軽快させる方法はないのでしょうか。原因にはホルモンのアンバランスもあるようですが、私は半年ほど前、プロゲステロンの分泌が少なめと診断されています。これも乳腺硬化の原因なのでしょうか。週に2~3回、水泳とウエートトレーニングをしていますが、症状の悪化もしくは軽快を招くことはあるでしょうか。また、今後避妊のため、低用量ピルの服用を考えています。ピルが乳腺に及ぼす影響も知りたいです。



【答え】 乳腺症 -脂肪摂取の制限有効-

徳島大学医学部 産婦人科学教室助教授 鎌田 正晴

 臨床症状から乳腺症と考えられます。乳腺症は30~40代の女性によく見られる良性の疾患で、乳腺患者の中で最も頻度の高いものです。

 症状はシコリと疼(とう)痛が多く、乳頭からの異常分泌が見られることもあります。乳腺組織が異常に増殖したり、逆に萎(い)縮したりすることにより、腫瘍(しゅよう)に似たシコリや嚢胞(のうほう)を作るものです。乳腺炎のような炎症性疾患や乳がんのような腫瘍とはまったく異なる疾患です。異常が起きる場所や起き方によってさまざまな病態を示し、ほとんど正常といっていいものから、がんとの鑑別が難しいものまで幅広く含まれます。

 乳腺症の診断では、乳がんでないことをはっきりさせることが最も重要で、そのためにはマンモグラフィや超音波検査などの画像診断が必要です。さらに針で細胞を取り出す穿刺(せんし)吸引細胞診あるいは生検による診断が必要なこともあります。

 原因はよく分かっていませんが、ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)のアンバランス、特にエストロゲンが相対的に過剰であることが病因と考えられています。実際、乳腺症ではエストロゲンの産生が増える排卵期や月経の前に、疼痛やシコリが現れたり、その症状が重くなったりすることがよくあります。

 先ほどから乳腺症を乳腺の疾患と書いてきましたが、最近では乳腺症のほとんどは、病気ではないという考え方になってきています。基本的に治療は必要なく、あなたのように経過を観察するのが一般的です。その期間は、乳がんの危険性がどれだけ否定できるかで決まり、少しでも心配が残る場合は3~6カ月ごとの検診が必要です。ほぼ心配ない場合は1年ぐらいの受診間隔でよいでしょう。

 さて、あなたの症状の乳房痛について説明します。乳房痛で来院される患者さんのほとんどは、乳がんの不安から過敏になっており、乳がんでないことを説明するだけで軽快することがよくあります。またホルモンの作用により、月経前の数日間、乳房が痛んだり、シコリを感じたりすることは生理的ですから、月経前に周期的に起こる乳房痛は治療の必要はないでしょう。

 しかし、日常生活に支障があるような強い痛みがある場合はホルモン療法が行われます。注射と経口薬がありますが、いずれも男性ホルモンの誘導体で、エストロゲンの作用を弱めたり、産生を抑制したりして効果を発揮します。4~6週間の治療で症状が改善されますが、若い人は再発する場合があります。さらに多毛などの男性化、また経口薬では肝酵素が増えるといった副作用があります。また、妊娠中には使えませんので、月経開始直後から使うなどの注意が必要です。

 脂肪摂取の制限が乳腺症の有効な治療法と考えられており、その点で水泳などの運動は奨励されます。あなたはプロゲステロンの分泌が少なめといわれており、軽い卵巣機能不全が疑われます。それが乳腺症の原因とは言い切れませんが、ピルの服用は逆に症状を緩和することさえ期待できます。いずれにせよ、低用量ピルが乳腺症を悪化させる心配はありません。

 最後に強調したいことは、乳腺症の診断は乳がんでないことをはっきりさせることが大前提であり、一部ですが、乳がん発生の危険性が高い乳腺症もあるようです。画像診断を含めた厳密な診断と今後の定期的な検診をお勧めします。

徳島新聞2000年9月24日号より転載

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