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【質問】 血痰を放置してよいか

 70歳の男性です。11年前に慢性気管支炎と診断され、今も通院しています。最初は時々せきと痰(たん)が出る程度でした。しかし、6年前から血痰が出るようになり、痰を検査した結果「非定型抗酸菌症」と診断されました。その後1年間の予定で、抗生物質を飲み始めたのですが、半年後に行った血液検査で白血球数の減少が判明。薬の副作用とのことで、直ちに服用を中止しました。お尋ねしたいのは、時々出る血痰を放置しておいてもよいのか、非定型抗酸菌症に対して特別に治療しなくてもよいのか、日常の食事、運動面で特に注意しなくてはならないことの三点です。なお現在は、去痰剤、止血剤などを処方してもらっています。



【答え】 非定型抗酸菌症 -気管支動脈ふさぐ場合も-

国立療養所東徳島病院 副院長 杉本 友則

 まず、抗酸菌から説明します。昔、不治の病といわれていた肺結核をご存じでしょう。その結核菌は抗酸菌の代表的な菌です。痰を顕微鏡で見る細菌検査では、そのままでは見えにくいため、染色といって細菌を染めます。一般の方法では染まらないため、火で熱しながら染色します。いったん染まると強い酸で処理しても脱色されないために、抗酸菌と名付けられました。ですから酸に強いという意味ではありません。

 人に関係して病気を引き起こす数十種類の抗酸菌のうち、結核菌と、ハンセン病のらい菌以外のすべてを非定型抗酸菌といいます。結核菌と非定型抗酸菌は外見上区別がつきませんが、最近では遺伝子を利用した診断方法が導入され、迅速、正確に判定できるようになりました。以前は抗酸菌が検出され、結核として当院に紹介された患者の約20%が非定型抗酸菌症(AM症)でした。

 抗酸菌全体でみると、結核菌は人に住み着いた特殊な菌で、むしろ結核菌を非定型とする方が適切ともいわれており、近年では非定型抗酸菌症は、非結核性抗酸菌症(NTM症)と記載されつつあります。

 結核菌が体内でしか繁殖できないのに対し、非定型抗酸菌は本来、土や塵埃(じんあい)、池、水たまりなどの自然界に生息しています。人の体内で病原性を現すのは十数種類で、そのうちマック(MAC)と呼ばれる二種類の菌(アビウムとイントラセルラ-)がその約70~80%(当院では80~90%)、カンサシが残りの多くを占めています。

 結核は人から人へ感染するのに対し、非定型抗酸菌は自然環境に常に存在していることから、塵埃や水などから感染し、まれに発病します。少量の非定型抗酸菌が1回検出されただけでは診断を下さず、菌量や病状などを考慮して診断します。

 結核菌に比べ感染力ははるかに弱いものの、他の基礎疾患や免疫力の低下、肺結核の既往症、慢性気管支炎などがあれば、罹患(りかん)しやすいようです。また、まれに結核に近い症状を示すものもあれば、ほとんど病状がなく、痰から菌が検出されるだけの方も多く見られます。

 治療法は病院や医師によってさまざまで、残念ながらいまだ確立されていません。結核ほどの効果は望めませんが、抗酸菌ですから抗結核薬に加えて、抗生物質のクラリスロマイシン(ただし非定型抗酸菌症に対しては保険適応はない)などで治療します。結核予防法の公費申請も可能です。

 一応、半年間治療を続け、主に排菌(痰から菌が出ること)状態により効果を判定します。初感染で早期なら約80%、全体では50%程度の患者が数カ月で排菌がなくなります。しかし、再発するケースも多く、その後1年間にわたって治療を続ける必要があるとされています。

 さて、治療の必要についてですが、非定型の菌種、病状、合併症の有無などにより異なります。治療を続けられても20~50%の方は排菌が続きます。病状も個人差が大きく、白血球が減少する場合は免疫力が下がるため、副作用との兼ね合いで治療を判断せざるを得ません。あなたは半年間治療されていますが、その後の菌量や、レントゲン写真、自覚症状などの経過観察が必要です。

 また、体力があり、病巣も広くなければ、その部分を外科的に切除する方法があります。主治医と相談されるとよいでしょう。

 次に血痰については早めに止血剤と一般抗生物質、抗菌剤などを内服し、かっ血するようなら、気管支の動脈をカテーテルでふさぐ場合があります。持続性なら痰の細胞診、気管支鏡検査も考慮します。

 一般に抗酸菌症は慢性疾患で、体力、免疫力が大きくかかわってきます。日常生活では特に気を使うことはありませんが、十分に食事と睡眠を取るとともに、体力をつけるため、過度にならない程度の運動なら行った方がよいと思います。

徳島新聞2000年8月20日号より転載

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